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胡蝶蘭
右手には菫の花束。左手にはお父さんの生活用品の入ったバックを背負い、彼の病室を目指した。
7階の個室、725室。その一般病棟にあたしの旦那は入院していた。
そこの個室をノックし、部屋の中に入ると一昨日よりもやせ細ったあたしの旦那がベッドに腰かけていた。
「大輝―。元気か?」
「蘭か、いつもありがとうな」
「気にしない。気にしない」
酸素マスク越しにかすれた声でそう言い、安心したような優しい表情をした。
彼は三年前に胃ガンが見つかり、通勤しながら治療をしていた。
しかし、容体は悪化するばかりで、一年前から病院から出られなくなってしまった。
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