【first branch】 「なんでカキ研入ろうと思ったん?」

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【first branch】 「なんでカキ研入ろうと思ったん?」

後期が始まる10月1日。僕は正式に第一希望の花卉園芸学研究室(通称『カキ研』)へ配属になった。カキ研は花卉、いわゆる観賞用になる草花を研究の対象としている。(ちなみに、"柿"は果樹園芸学研究室の管轄である) 新しく研究室に配属される僕らゼミ生と先輩達との顔合わせは4限の必修授業の後、16時半からだった。 カキ研は総合棟の4Fに位置し、建物の中で一番奥まった部屋だった。この階には授業で使用する実験室もあり、フロアへ来ることはあっても研究室へ直接向かうのが今日が初めてだった。研究室に早く行きたくて思わず部屋の前まで辿り着いてしまったが、腕時計に目をやるとまだ16時10分を指していた。いくらなんでも早すぎるな…と踵を返そうとしたその時、 「あれ、三年生の子?早いねぇ」 と声をかけられた。びっくりした僕が顔を上げるとそこに立っていたのは、白衣を着たゆるふわロングの小柄でいわゆるぽっちゃり系な女性だった。小脇には大量の紙コップと2Lジュースが抱えられている。 「あ、はい。結構早く来てしまったので戻ろうかと思ったんですが…」 「そうなの?全然中に入ってていいよー。今日は三年生の歓迎会しようと思っててね、色々準備してた所なんだ。あ、私はM2(大学院2年)の福本茉莉奈です」 両手が塞がっていたので研究室のドアを開けてあげた。ありがとー助かるーと言いながらちょこちょこと歩く姿は、さながら小動物みたいだった。 福本さんが一直線に向かった先には、一心不乱に顕微鏡を覗いている人がいた。僕はその姿に自然と背筋が伸びるのがもう分かってしまった。cefca842-c491-4efc-9a97-fe29b0b34c2d パツンと真横に切りそろえられた黒髪、パリッと綺麗にアイロンされたストライプのシャツに黒のパンツスタイル。その上に羽織った白衣は彼女自身の印籠のように感じた。 福本さんは邪魔をしないように小声で話しかける。 「菜摘ちゃーん。コップとジュースいっぱい持ってきたよー。…って聞いてる?」 「ああ…!!ごめん!夢中になっちゃってた。茉莉奈ありがとうね。あれ、後ろの子は?」 「あ、あの!新しく花卉園芸学研究室配属になりました、資源循環科学科三年生の白木杏平といいます!」 急に話を振られると思っていなかった僕は、かなりしどろもどろになった。いい歳になって緊張するの本当にもう止めたい。 「あ、なるほど。三年生の子か~。初めまして、うちは石野菜摘。この子と同じM2。よろしくね」 この大学では珍しい関西の方言を石野さんは話す。石野さんは覚えていなかったけれど、僕とは初対面ではない。直接話すのは、これで2回目だ。
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