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農祭の当日は良く晴れていた。カキ研メンバーは手分けして準備に入り、僕ら三年生は大きいポリバケツに水を貯めて圃場から採りたての切り花を浸ける。側面に植物名と値段を書くように先輩から頼まれていたのだけど、それだけじゃ物足りないなと僕は思った。
「あれ、花言葉って誰書いてくれたん?」
石野さんの言葉に僕は黙って手を挙げた。園芸大好き人間だった祖母から叩き込まれて育ってきたので主要なものなら分かる。少しでも取っ掛かりがある方が購買意欲を刺激出来ると思ったからだ。
あるバケツの前で石野さんは足を止める。そこには赤紫色のカラー、キャプテンプロミスが入っていた。
「『乙女のしとやかさ』…やね。自分の研究対象やのに、最初全然花言葉とか知らんくてね。一昨年の農祭で売り子してる時に、おばちゃんにカラーの花言葉聞かれたんよ。
おばちゃんの横におった男の子が『乙女のしとやかさ、ですよ』ってアシストしてくれてね。おばちゃんは上機嫌でたくさん買うてくれたんやけど、対応しているうちにその子にお礼もろくに言えてない状態でね。
その代わりじゃないけど、ちゃんと花言葉覚えたんよ。カラーに似合う、良い言葉やから」
僕は石野さんの言葉に顔を上げられなかった。でも、言わなくちゃいけない。僕がカキ研を目指した本当の理由を―。
「菜摘!!」
血相を変えて、片岡さんが走ってきた。訝しんでいる石野さんに片岡さんが向き直る。
「さっき圃場に行った時に気づいたけど、ウェディングマーチの様子がおかしい。もしかしたらだけど、軟腐病かもしれない…」
僕はそのまとわりつく言葉を振り切るように、圃場へ走った。
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