【third branch】「助けてもらってばっかやね」

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【third branch】「助けてもらってばっかやね」

圃場に辿り着いた時、ハウスの外から見ても異様な光景になっていた。茎部分が褐変していて、外側から株元で倒れている。 僕の横で石野さんがその場でへたり込んでしまった。片岡さんが黙って肩を抱きしめる。 「そんな…何で急に…。先週まで何ともなかったのに…先生も長期出張で居てないし…」 僕はハウスのドアを開けて中に入る。半分のウェディングマーチが茶色くなっている。悪臭はしないし茎が腐敗しているわけではないから、片岡さんの言う軟腐病の症状ではないと思う。 そして、根まで褐変してないからカラーの大敵である疫病でもない。そもそも、この品種は抵病性だから…。新しい病害? 一旦ハウスから出ると、石野さんはもう憔悴しきっていて声をかけるのもはばかられた。だけど。 「石野さん」 僕は同じ目線に座って、強く名前を呼んだ。ゆっくりと顔を上げた石野さんは目を赤くしてポロポロと涙をこぼしていた。この期に及んでその顔すら可愛いと思ってしまう自分がいるのを殴りたい。 「祖母が畑地性のカラー育てていて軟腐病とか疫病の症状見たことあるんですけど、今回は症状が違うみたいです。なので、病理研に頼んでみませんか。あの、ツテがあるんで話通しやすいと思います」 石野さんが僕の両腕を掴む。手の感触は柔らかいけれど、冷えきっている。 「ごめんね…力借りてもいい…?」 力無く放たれた言葉に僕は、はいと答えた。
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