エピローグ

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エピローグ

立春を過ぎたとはいえ、冬の冷え込みが一層増している季節だった。 「白木くん久しぶりだねぇ。もうM2になったのかぁ」 僕に話しかけてきたのは福本さんだった。3年経っても、あの頃と変わらないこの感じ。 「会うの卒業式以来ですかね」 「もうそんなになるんだ、時間経つの早いよ。卒業してからは特に」 卒業していなくても感じる、時の流れ。僕と福本さんが会えた理由もその一つの要因かもしれない。 「もうそろそろ時間だし、中に入ろうか」 僕は襟を正して、白いネクタイを真っ直ぐに整えた。 厳かな音楽とともに正面のドアが開いて、純白のドレスに身を包んだ石野さんと白いスーツの片岡さんがゆっくりと披露宴席へ向かう。石野さんの手元には小さいブーケが添えられていた。隣にいる福本さんが僕の腕を小突く。 「分かってますよ。今日は特別なんで」 席についた新郎新婦を合図に司会の女性が話し始めた。 「本日は片岡樹さん、菜摘さんの結婚披露宴にご出席頂き、誠にありがとうございます。 まずはお互いのプロフィールから紹介の予定だったのですが、新婦の菜摘さんよりお話したいそうなので、マイクお渡ししますね」 石野さんは、何度も頭を下げて震える手でマイクを握った。 「段取りと急に違うことをしてすみません。でも、この場を借りてお礼が言いたいです。学生時代、ずっとカラーの研究をしていました。研究成果も上手くいかず、卒業直前には病気も発生して、ずっと心残りでした。 でも、今入場する時に渡されたブーケにウェディングマーチが入れられてて…」 石野さんはもう涙声になっていて目に涙をためながらも息を吸い込んだ。 「本来、この季節に咲かない花なんです。でも、後輩の子が実現してくれました。 きっと、私の結婚式に合わせてくれたんやと思います。ありがとう、めちゃくちゃ嬉しいです」 会場は大きな拍手に包まれた。試験的に咲かせることに成功したウェディングマーチをサプライズとしてブーケにしてもらったのだ。石野さんならすぐ気づいてくれると信じて。 花言葉だけじゃなく、やっぱり石野さんにはカラーが一番似合う。僕は大きく手を叩いた。
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