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薄暗く蝋燭の明かりが灯る廊下をフォンセは歩いていた。
「そんなに言っても無駄だよ」
フォンセは手に一つの瓶を手に持ち語りかける。
二つの瓶をフォンセの腰に携えている。
三つの瓶には人間の魂が詰め込まれており、この三人は自分の恩人である人間の少女・日和の心身ともに深い傷を負わせた罪がある。
その一人の魂である黒石は瓶の中にいるにも関わらず早く出せや家に返せと抗議している。
魂なので危害を加えられることはないが、フォンセが歩いている間、延々と言い続けるので、流石に苛ついた。
「分からないならこれだよ」
フォンセは左手で瓶を持ち、右手の指を動かした。
黒石の口には布が巻き付けられる。
黒石の取り巻きは凪とゆかりという名前だが、凪は膝を抱えて泣き、ゆかりは抗っても無駄だと分かっているのか黙り込んでいる。
「これで良しと、大人しくしてね」
フォンセは言うと、黒石が入った瓶を腰に再び携える。
フォンセは廊下を進み始めた。
歩くこと十分が経ち、フォンセの目の前に大きな漆黒の扉が現れた。
「ザラーム、入るよ」
フォンセが一声かけて扉を潜ると、扉についた鈴がチリン……と鳴り響く。
全身黒マントの人物が椅子に座っているのが視界に入った。黒マントの人物は鈴の音に反応して顔を上げる。
「おや、フォンセか」
「久しぶりだね」
「久しぶりって……まだ一週間前に会ったばかりじゃないか」
ザラームは呆れたように言った。
「そうだっけ、最近忙し過ぎて時間の感覚が飛んでたよ」
「神様になったんだから、時間には気を付けた方が良いよ」
「痛い所を突くね……まあ肝に銘じておくよ」
ザラームの指摘にフォンセは苦笑いを浮かべる。
ザラームはフォンセの同期で、昔は一緒にいて楽しくも、フォンセが足りない部分を教えてくれたりする大切な友人だが、今でもそれは変わらない。
ザラームもフォンセのように神様になれたが、性に合わないらしく神様にはならず魂の番人になった。
「で、ここに来たってことは魂を鑑定して欲しいからだよね」
「そうだよ、地獄行き確定だろうけど、どの地獄に行くのか調べて欲しいんだ」
フォンセは三つの瓶をザラームの前に見せた。
神様には魂を天国か地獄に行かせる権利がある。天国は一つだけだが、地獄は罪の重さにより八つの階層が決められていて、どの地獄に送るべきか判断に迷う場合はザラームを含む魂の番人に聞いて良いのだ。
適切な所に魂を行かせないと神様の称号を剥奪される。
「この三人の名前は?」
黙って三人を見ていたザラームが訊ねる。
「左がナギサ、真ん中がクロイシ、右がユカリだよ」
フォンセは指を差しながら言った。
二人が下の名前で、一人が苗字で呼ぶのはフォンセにとって癖になってしまった。
ザラームは細かい事を気にしないので名前の呼び方には突っ込まない。
「ナギサとユカリは地獄の第二階層だね、生前一人の女子に万引きを強要させていたから」
「女子はヒヨリだね、ワタシの恩人だよ」
「そして、クロイシは地獄の第五階層だよ、そいつは未成年にして、様々な悪行をこなしたからね」
割りと重い階層に黒石が行くことに、フォンセは内心嬉しかった。
日和を傷つけるきっかけを作った人物なので、それなりの報いを受けて欲しかったからだ。
ちなみに地獄では一番軽い一の階層でも重く厳しい罰を受けると聞く。二と五は一の階層の倍の罰を受けることになりそうだ。
「二と五階層だね、教えてくれて有難う」
フォンセは三つの瓶を両手に抱えて持った。一々腰に携えるのが面倒になったためだ。
「またザラームに会いにくるからね」
「……ちゃんと時間には気を付けるのよ」
「そうだね、じゃあまたね!」
フォンセは元気よく言うと、ザラームの前から去っていった。
フォンセは元来た道を軽い足取りで進んでいた。これから天獄の門と呼ばれる天国と地獄に繋がる門に向かうためだ。
「ヒヨリ、三人は厳しい罰を受ける地獄行きになったよ、だから安心して幸せになってね」
フォンセは日和に語りかけるように言った。
最近日和の様子を見たが、友人に囲まれ笑う
日和は本当に幸せそうだった。それを見てフォンセの胸は温かくなった。
この後、三人の魂が天獄の門を前にして最後の抵抗と言わんばかりに暴れて逃げ出そうとしてフォンセを困らせつつも、どうにか地獄送りにできたのはまた別の話。
「はぁ……楽しかったな」
自宅の自室に来て日和は満足げに口走る。今日は二人の友人と遊園地に遊びに行って来たのだ。
椅子に腰掛け、日和はスマホを手に持ち、撮った写真を眺める。
日和、長谷川ごと雫、そして莉世の三人で写った写真が多くおさめられていた。
今まで辛いことばかりだったので、学校では雫と莉世と一緒に話し、お昼を食べ、共に帰り……それだけでも十分に楽しいと感じた。
今日、友人と遊べたことは日和にとってこの上ない幸せだった。明日が来るのが待ち遠しい位だった。
ただ。凪とゆかりを消し去ったことに対して罪悪感を感じないと言うと嘘にはなる。いじめっ子とはいえ、かつては仲が良かったからだ。黒石を消したことへの罪悪感は微塵も無いが……
日和は考えるのをやめた。過ぎたことだし、悔やんでも二人が戻ることは永遠に無い。
「雫と莉世にメッセージ送ろう」
日和は気を取り直して、スマホを操作し始めた。今は雫と莉世が大切だからだ。
フォンセに感謝しつつ、日和の一日は過ぎていくのであった。
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