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【 6 】
『 人間に害を為さないこと 』、それが今後、全ての水深儀に新たに加えられる最大にして最優先の絶対的行動律となった。
特に、大型の水深儀は度重なる改良によって初期の物より格段に性能が上がっている。 その球形の殻内に張り巡らされたバネに蓄えられる反発力の総計値は、短時間の発現に限れば四頭立ての馬車が見せる前進の勢いに匹敵した。
「 扱い方を誤れば、非常に危険な力だ。 私が誰よりも早く、その事に気付くべきだった 」
エミルエマルカスは、能力の向上や効率のみを際限なく求め続けたことを自戒する。
人間の存在を無視してまで仕事の遂行を優先する自律機械であってはならない ——— 立ち止まり、安全性を追求すべき時が来ていた。
そのためには、水深儀に『 人間 』を認識させることが必要だ。
まずは島民すべてに、特有の刻転音を一定の間隔で発する歯車を内蔵した装置を常時携帯してもらう案が出され、検討される。
その旋律は自律機械にのみ聞き取れる特殊な周期の極低音で、口の開閉やヒレの反復など、水深儀が外界に直接の影響を与え得る動作の全てを一時的に停止する命令効果を持っていた。
この「 安全装置 」を所持してさえいれば、停止命令音の届く範囲内にいる水深儀から危害を加えられる事態はまず起こらないだろう。 これは理論としては完全かつ、問題の解決法としても、疑問の余地なく完璧と言って良かった。
「 うむ、これで数値の確認は終了だ。 いよいよ作業に取り掛かれるぞ 」
最終設計を終えたエミルエマルカスは数式と部品の構成図が書き揃えられた粘土図版棚を満足げに見やり、夜を徹して多種多様な計算に携わった弟子たちに呼びかける。
「 あとは十分な数の完成品を揃えるだけだ 」
「「「 はい ! ! 」」」
夜明けの工房に声が響き渡った。
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