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【 13 】
沈んでしまった自律機械を拾い上げるのは、そのすぐ後に潮目が変わり魚が集まり始めた事で、一旦後回しになった。 舟の真下を、漁に適した海流が魚群を導いて通り始めたのである。 少年の抗議も、「 仕事が先だ 」と舟主と父親の両方を兼ねた厳しい顔で断言されてはだんだん弱くなってしまう。
しかし舟上のとげとげしい雰囲気とは違って、漁果の方は悪くなかった。 たった数回の投網で舟の生簀は回遊期で太ったヒメトビウオや卵持ちのフエダイで満杯に近くなって、魚の数だけでなく質の面でも上々の一日になりそうな按配である。
「 父さん、最後はもう少し網を深くしようよ。 さっき沈んだ機械を拾わなきゃ 」
息子の提案に舌打ちしつつも、仕方なしに漁師は海底を十分さらえる所まで引き綱の長さを調整してから網を打った。 ぶっ壊れるまで叩くつもりは無かったのによ …… 不機嫌そうにぶつくさ呟いてから、気乗りしないまま引き揚げにかかる。
しかし二人が呼吸を合わせて力を入れ始めてからすぐに、目算に反して網の引き綱は舟縁に食い込んだ。
「 うおっと …… !! 」
濡れ縄が木目を削る耳障りな音と一緒に、弾みでがくりと舟が傾いでしまう。
魚群を取り込むのとは違い、相当な重さだ。大きく膨らんだ網が、舟と海底の両方から引き合う形で海中に留まったままでいる様が漁師には容易に想像できる。
「 ああ畜生めが、なんて重さだよ! みんなあの機械のせいだぞ! あのガラクタと来たら噛みついて来るわ、余計な力仕事を増やしやがるわ、本当にろくな事を起こさねえ! 」
「 …… きっと石だね 」
隣で同様に綱端と格闘していた少年が、網の引き綱を機敏に舟の背桁へと結び付けた。
「 僕が捨ててくる 」
海に潜って、網に絡んでいる重さの原因 ─── 大抵は海底を浚うと付いてくる石や流木、それに海藻類だが ─── を、舟に揚げる際の邪魔にならないように、水中で直接取り去ろうというのだ。
「 一人でやれるか 」
大汗を流しながらも漁師は息子を気遣った。
「 上に父さんが残らないと、網が重過ぎて沈んじゃうから 」
にっこり笑って少年は海に飛び込んだ。
「 あ、おい …… 」
あいつ今、海の様子をまるで確かめずに潜りやがったな。 危なっかしい奴だ、と漁師は長年の習慣と父としての配慮から、念のために海中を見わたしてみる。 ずっと遠くまで、念のためだ ……
…… そして、漁師は視界の彼方に最も見たくない生き物を見る事になった。
サメだ。
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