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【 24 】
浜裾に拡げさせた漁網の編み目を丹念に調べてから、エミルエマルカスは弟子たちを輪の形に集めると静かに指示を伝え始めた。
「 仕事だ、諸君 」
状況が切迫しているだけに師を見つめる若い面々には強い緊張がみなぎっていたが、職人自身は普段と変わらない態度を保っている。
その落ち着きは空虚な雄弁よりもずっと効果があって、その一団のさらに外側で恐慌の一歩手前にまで追い込まれていた島の人々は徐々に自分の口をつぐんでいく。
やがて各々作業に散った弟子たちの中から、数人が小走りに抜け出ると群衆に向かって大声でこう語りかけた。
「 皆さんの手伝いが要ります。 人の数が多ければ多いほど、助けになるのですが …… 」
助かる、という言葉が人々を微かに元気づける。
「 おう、なんでも言ってくれ! 」「 何をすればいい? 」
すぐさま周囲に同意を示す声が上がり始めた。こんな時は取りあえず何かするべき事があった方が、当座の恐怖を忘れられるというものだ。
「 浜に拡げた網の目ひとつ一つに、こんな風に一定の間を置いて …… こうやって、水深儀を取り付けていってください。 この、小さい方のやつをです 」
群衆を前に助手の一人が腕を高く上げ、漁網を形造る縄と縄の交差する箇所に細い紐を用いて実際に小型水深儀を結んで見せる。
普段、小さな水深儀は海底から水面へと上下方向に伸ばされる鎖に設置されて、休みなく水位変化を測っている。 それをどうやら今度は平面の状態へ並べ変えようとしているようだった。
網目の間隔を正確に数えて配された水深儀は一見すれば綺麗な模様か、あるいは人によっては平面上に規則正しく並んだ小さな浮き仕掛けのようにも思えるだろう。 見た目そのものにそれ程の奇妙さはない。
しかしこの作業の目的までは、島の人々にはまだ予想できなかった。
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