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村のメインストリートを歩いていると、男女の争う声が聞こえた。男は複数のようだ。おや、と思いそちらに視線を向ける。
メインストリートといっても、人間五人が並んで歩けるくらいの道幅で、風が通り抜けると田畑の土の匂いを運んでくる。ようは田舎のちょっと大きな道、でしかないが、ストリートの左右には、いくつかの飯屋、宿屋、居酒屋、日用品を売る商店、そして村で唯一の鍛冶屋などなけなしの商業施設が並んでいる。そして居酒屋がある以上、酔っ払いが出没するのも仕方のないことだった。
リカードは、男女の両方を知っていた。
三人の男たちは自分の部下で、第一歩兵隊の兵士だちだ。非番で、朝から酔っぱらっているらしい。酒を飲むくらいしか娯楽のない田舎の町であるからそれをやめろとも言えないが、住民に迷惑をかけるなら話はまた別である。
女のほうはかなり若い。彼女も第一歩兵隊に関わりのある人物で、軍から俸給をもらって兵士たちに食事を提供する、要するに炊き出しのパートのお姉さんだ。兵士たちの間を飛び回って、しゃきしゃきとよく働く姿は、見ていてこころよいものだった。朝日を浴びたバラのような美しい春色の髪をなびかせて颯爽と歩く姿は、冗談交じりであっても「春の女神の化身だ」と称賛されるに足りた。
彼女の後ろにいる、年端もいかない少女のほうに見覚えはない。さて、彼女に妹などいただろうか?
事態が悪化しそうになったら首を突っ込もう……そう思って、リカードは紙袋を抱えながら、彼らの様子を少し離れた位置で観察していた。
「だからな、アリーシャ。俺たちはそのガキに、ちょっと礼儀を教えてやろうって、こう言ってるわけだよ。そこをどきな」
兵士のひとりに対し、ばら色の髪の女性、アリーシャは「いやよ」とにべもなく言った。
「なにが礼儀よ。酔っぱらってふらふらして、この子にぶつかったのはそっちじゃない。あたし、ちゃんと見てたんだから」
兵士はイラついた口調で悪態をつく。
「うるせーな。ちょっと美人だからってつけあがりやがって。俺たちはお国に雇われたりっぱな兵士だぞ。武勲を立てれば、騎士になるのだって夢じゃねぇ。敬って当然だと思わんのか」
「あんたたちみたいな酔っ払いの、どこを敬えって言うのよ」
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