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両者、一歩も譲らない。アリーシャの背後にかくまわれた少女は、不安そうに成り行きを見つめている。
これはもう首を突っ込んだほうがいいかな、うん、そうしよう。
リカードは歩き出した。いちおう司令官職にある身として、部下の愚行を放置できないし、住民の安全に対する責任もある。
リカードが距離を縮めるあいだにも両者は激しく言い争いをしており、声をかける寸前で聞こえた来たセリフが、リカードの歩みを押しとどめた。
「さっさと砦に帰りなさい、酔っ払い! さもないと、あんたたちのポークピッツを切り取って、ホットドッグにしてやるわよ!」
これには、唖然として兵士たちも言葉を止めた。
リカードは吹き出しそうになって、慌てて口元を押さえた。ここで笑うと、兵士たちの怒りに油を注ぐことが必至だったからだが――本当はお腹を抱えて笑いたい。なんとも気持ちのよい痰火だ。
当然、一瞬の自失の後に兵士たちはカンカンに怒った。
アリーシャに掴みかかろうとした腕を、今度こそ「はい、そこまで」と言ってリカードは止めた。
たかが百人程度の部隊だ、指揮官の顔を知らない者はいない。
兵士はリカードの顔を見て「しまった」という表情をしたが、酒のせいか引っ込みがつかなくなっていたのか、リカードの腕を乱暴に振り払った。
「邪魔しねぇでもらいましょうか。これはこっちの問題ですんで。どうぞお帰りください」
酒臭い吐息で言われたが、はいそーですかと引き下がるくらいなら、わざわざ首は突っ込まない。
「君たちはもっと想像力を働かせるべきだね。うら若い女性に掴みかかる男が、果たして立派な兵士として尊敬を集められるかどうか、ということをね。いや、たしかに彼女はか弱いという表現からはほど遠い……ふふ、あ、失礼。まぁなかなかご気性の激しい女性だが、だからといって手を出すのは良くない」
さらに何か言い募ろうとした兵士たちを視線で押しとどめ、「周囲を見てごらん」と促す。
「村人たちの目に、果たして尊敬の光が宿っているかな? 私の見たところ、それとは別の種類の感情が、ここに集まった村人たちの中には芽生えているようだが」
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