愛の芽生え~チューリップの花を君に~

4/9
前へ
/9ページ
次へ
 周囲には野次馬が集まっていた。さほど大きな村ではないが、朝市のあとということもあって、二十名ほどの人間が集まって兵士たちを見ている。その目は明らかに「酔っ払いがなにを喚いているんだ」と非難していた。 「わが軍は村人の協力によって、不自由なく行動できているのだからね。あまり迷惑をかけるようだと、君たちの処分を検討しなくてはならないよ」 「……ちっ。分かりましたよ。おい、行くぞ」  後半は仲間に呼びかけて、兵士たちはその場を歩み去った。  リカードは女性たちに向き直り、「大丈夫かい?」と声をかけた。彼女たちにはまだ緊張の名残があった。  リカードは袋から梨をひとつ取り出すと、アリーシャの後ろに隠れている少女に向かって差し出す。 「怖い思いをさせて悪かったね。これ、好きかい?」  少女がこっくりと頷いたので、その手に梨を握らせた。  リカードはその頭をやさしく撫でると、アリーシャに視線を戻した。 「君にも迷惑をかけてすまなかったね……ふふっ」 「なんで笑っているのかしら、マクラウド大尉」 「あ、いや失礼。ホットドッグは勘弁してくれ」 「……」  思い出してまたおかしくなり、リカードは結局声をあげて笑ってしまった。アリーシャは憮然(ぶぜん)としている。 「とにかく、助けていただいたことにはお礼を言うけれど、部下のしつけはきちんとしてほしいわ」 「あぁ、その通りだね。また困ったことがあったら、いつでも相談してくれ」  リカードは真面目な顔に戻って言い、「どうせ暇だしね」と付け加えた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加