愛の芽生え~チューリップの花を君に~

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 リカードは、椅子の上で大きく伸びをした。 「私は部下に恵まれたようだ。おかげで、堂々と昼寝をしていられる」 「構わないぞ。夕飯になっても起こしてやらないから」 「……それはダメだ。アリーシャに会える機会を失ってしまう」  リカードは真剣な表情で「彼女に振り向いてもらう作戦を考えなくては!」と呟いた。  結局、その作戦とやらを考える(てい)で眠っているようだ、とアザドは結論付けた。  用があって私室を訪ねたがリカードの姿はなく、おそらく、と思い探しに来た城砦のせまい中庭で、本をかたわらに幸せそうに眠っている姿を見つけた。  蹴飛ばして起こそうかと思ったが、兵士の目があるのでやめておいた。こんなのでも、いちおう司令官である。  アザドはリカードが読んでいたらしい本を手に取った。そのタイトルは『花と花言葉の図鑑』というなんともメルヘンなものだ。というか、女性に告白するのにいちいち花言葉を調べようというロマンティックな精神構造が、アザドには理解できない。そんな暇があればさっさと告白しろよ、と思う。  五歳の初恋のときも、三年も片思いした挙句、相手が遠方に引っ越すことになり、想いを告げることもなく終わったのだ。以来、色恋沙汰とは縁もなく大きくなり、騎士に叙任されて軍隊に入り、ますます女性から遠ざかってしまった。別に初恋が実らなかったことがショックだったのではあるまい、単に鈍い性格だからだ、とアザドは思っている。実際、貧乏とはいえ男爵家の一員であり、見目がよく性格も穏やかなリカードを思慕する女性はそれなりにいた。それに気付かなかったのは本人の罪だ。 (イヤな予感がする。こいつのドンくさい片思いを見守らなくてはいけないのだろうか)  三年間うじうじしていたリカードの姿を思い出し、ぞっとするアザド。あの頃より、恋愛感覚が向上していることを祈りたい。  *  ペスカ村では、秋に収穫する稲作の裏作として春に咲くチューリップの栽培を行っている。  リカードは村人のひとりから球根を譲り受けると、さっそく城砦の中庭にそれを埋めることにした。後ろを通り過ぎる兵士が不思議そうな顔で、リカードの園芸を見ている。リカードはもちろん気にしない。
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