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地面を軽く鋤いて空気を含ませ、いっしょにもらってきた肥料を撒くと、球根みっつ分くらいの穴を開け、そこに球根を植えていく。
春になると、ここにピンク色のチューリップが咲くはずだ。それをアリーシャに捧げよう。
自分の行いに満足したリカードは、それを幼馴染に報告して「バカじゃないのか」とこき下ろされた。
「春まで待つのか。まだ秋だぞ。いっそ球根をリボンで飾って告白しろよ」
アザドの提案を、リカードは却下した。
「いやだよ。そんな情緒のかけらもない告白じゃ、女の子だっていい気持ちはしないさ」
「兵は拙速を尊ぶという言葉を、この際お前は信じたほうがいい。さっさと告白しろ。俺は興味ないが、美人だから引く手あまただろう。先を越されても知らないぞ」
アザドに熱心に説かれ、リカードも思うところがあった。
「そうだね。春まで手をこまねいているわけにはいかない。その間にちょっとでも私のことを好きになってもらえるようがんばるよ」
リカードは決意し、その日からさっそくアピール運動に取り組んだ。
その日は午後から雨だった。兵士たちの食事を準備している厨房に顔を出したリカードは、アリーシャに手のひらに持った生き物を見せた。
「今日は雨だから、カエルが元気だね」
「ゲコ!」
なぜか胸を張って鳴くアマガエルを見て、アリーシャは冷たく言った。
「大尉、カエルのスープがお望みなら、作りますけど」
「……うん、いいんだ。いつも美味しい食事をありがとう」
リカードのアピール運動は日々そんな調子で一向に前進せず、報告するたびにアザドに叱られた。
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