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直植えするとほとんど水をやる必要もないので、世話といっても雑草を抜くくらいしかすることがない。チューリップの球根に向かって、リカードはしょんぼり話しかけた。
「アリーシャとはあまり仲良くなれないし、アザドも冷たい。私はかわいそうな男だなぁ、そう思うだろ?」
当然、球根は返事をしない。
黒い地面に向かって話しかけている姿を、後ろにいた人物はすこし気色悪そうに見ていた。
気づいたリカードが振り向く。
そこには、アリーシャが立っていた。
「……アリーシャ?」
「その、食事の支度が出来たので大尉を探してたんです……何を植えたんですか?」
アリーシャが私の行動に興味を持ってくれた!
リカードはにっこり微笑むと、先走る気持ちをおさえて「内緒だよ」と言った。
「でも、春になったら君には教えてあげる。さぁ、食事が冷めないうちにいただくとしよう。いつも美味しい食事をありがとう、アリーシャ」
「……べつに。仕事ですから」
そのときアリーシャの頬がすこし染まった気がしたが、リカードにその理由は分からなかった。
*
まぁ、こういう恋愛もありかもしれない。
アザドはあきらめの境地とともに、リカードのアピール行動を眺めていた。
今日の彼は、行商人から買った珍しい品をアリーシャに贈ることにしたようだ。彼女を呼び止めて話す姿が、城砦の窓からうかがえる。
「こんにちは、アリーシャ。冬場の水仕事はつらいだろう? これ、いま街で流行りのハンドクリームだって。あまりにいい香りだから、春につけると蝶とか蜂とかたくさん寄って来るんだってさ」
いや、それは仕事の邪魔だろう。というか、虫に囲まれることを想像すると気持ち悪くないか?
アザドは胸の中だけでツッコミ、続きを見守った。
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