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大切な人
出会ってから今まで、何度この言葉を俺はお前に言っただろう。
『親友』
それは、俺とお前を繋ぐ言葉。
例え特別になれなくても、お前にとっての一番大切な人であり続けることが出来るのであれば、俺はずっと親友でも構わない。いつまでも隣で笑っていてくれるのならば。
入学の日、俺は親友の姿を探していた。校門の50m前までは間違いなく隣にいたはずなのに、いつの間にか居なくなっていた。おそらく俺の気づかない内に、ふらふらとどこかへ行ってしまったのだろう。
溜息をつく。周りを見渡せば、男、男、男。腐男子である親友、しゅんは密かにこいつらを攻めか受けかに分類して楽しんでいるのだろう。
去年の夏に、男子校に行きたいと言い出した時は驚いた。しかも志望動機が、たくさんのカップリングを勝手に作って妄想したい、という不純極まりないものだったから、呆れてものが言えなかった。でも結局それに付き合って同じ高校を受けた俺も、かなりの動機不純だけれども。
もう一度溜息を吐き出した。
制服の波の中に茶色い髪が見えた。慌てて追いかける。
呼び止めると、しゅんは嬉しそうな顔で笑って答えた。少し前までいらだちを覚えていたのに、笑顔を見るだけで許してしまった。それどころか、危なっかしいから俺が守らなきゃ、という気持ちにさせてしまう。
「クラスどうなるかな?」
しゅんが聞いた。それはあまり考えたくなかった。一緒になれればもちろん嬉しいけれど、もし離れてしまったら俺がこの学校を選んだ意味が半減してしまう。
クラス名簿を確認すると、同じクラスだった。しゅんがはしゃいだ声を上げる。でも俺は顔に力を込めて、無表情を作った。少しでも気を抜けば、嬉しさのあまり、締まりのない顔になってしまいそうだったから。
ふいに静かになり、隣を見るとしゅんが俯いてしまっていた。俺は慌ててしまう。感情を抑えようとするあまり、冷たい態度をとってしまったのかもしれない。それでも俺は、自分の中にあるこの感情の高まりを知られたくなかった。
「俺、ともと同じクラスになれて嬉しい。ともは?」
しょげた声で聞かれた。何でそんなこと聞くんだよ、嬉しいに決まってるじゃないか。そう思ってから気づいた。しゅんは鈍感だから言葉にしないと伝わらないのに、一度も自分の気持ちを伝えていないことを。そんな俺を見て不安になっていることに。
昂っていた気持ちが落ち着いた。
「当たり前だろ。しゅんは親友なんだから。」
そうだよ、俺たちは親友なんだから、嬉しく思うことは何も不自然なことじゃない。
しゅんの髪の毛をぐしゃぐしゃと撫で、肩を叩いて歩き出した。
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