2月30日

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2月30日

とある刑務所では、ある男が窃盗の罪で捕まり、服役していた。そんな男の獄中の仕事は、2020年のカレンダーをパソコンで作成し、印刷する仕事だ。 そんなある日、男がいつも通り看守たちの監視の下、カレンダーを作成し印刷していると、あるミスを犯してしまった事に気付いた。 「やっべ、2月の最後に30日って打ってそのまま印刷しちまった...」 そう、男は誤って2月のカレンダーにありえない日付である30日を入れてそのカレンダーを大量に印刷してしまったのだ。 そして男はそのミスをすぐさま、近くの看守の男にミスを報告した。 「あの、2月のカレンダーに30日を入れて大量に印刷しちゃったんですけど...」と。 すると看守の男の口からは驚きの一言が発せられた。 「何言ってるんだお前、2月は普通、30日までだろ」 「いやいや、看守さんこそ何言ってるんですか?2月は29日までじゃないですか」 「怖いこと言うな。それでいいんだよ、それで」 男は看守の男が言った言葉の意味が理解できなかった。 (2月って普通は29日までだろ...) 今のはただ看守の男がふざけてそう言っただけだと思い、男は近くにいた同じの牢(ろう)のルームメイトにも訊いた。 「おい、2月って普通は29日までだよな?」 「お前どうした?普通30日までだろ」 それもそのルームメイトだけでは無い。周りの人間がみな、30日まで入れたカレンダーを作っていた。 男はこの奇妙な現実を受け入れられないまま仕事を何とか終え、床(とこ)についた。 それからいくつか歳月が経ち、2020年2月29日になった。 男は30日のカレンダーの事などすっかり忘れており、いつも通りに床についていた。 男の生活する牢屋の中にはベッドが2つあり、ベッドの枕元の辺りには時刻、日付を報(しら)せるデジタル時計があった。そしてそのベッドの上には29日までバツ印がつけられた30日入りのカレンダー。 只今(ただいま)の時刻は2020年 2月29日 23時58分。もうすぐ日付が変わろうとしていた。3月1日に、本来ならば。 しかし時刻が0時を回ると、時計には2020年 2月30日 0時00分と表記されている。 男は故障か?と一瞬疑ったが、そんな故障ある訳ないと考え、同時にあの時の事を思い出した。2月のカレンダーに30日を自分で作った事。 まさかそんなことがあるはずない、そんな事を思いながら男は眠りについた。 朝の5時。看守の掛け声で囚人たちはみな目を覚ます。 男も起床し、枕元の時計を見るが、やはり日付は2020年 2月30日だった。 男は気味が悪いと思いつつも普段通り、刑務所での一日を過ごした。どうってことない、特にアクシデントも起きなかった平凡な日だった。 男はいつも通り床につく。時刻は2月30日 23時56分。 何か不思議な気分で過ごした一日だったが、特に何も起こらなかった平凡な日だったなと振り返り、男は眠りについた。しかし、この時、男はあるミスを犯していた。そのミスが、まさかあんな事になるとは夢にも思わないだろうが。 朝の5時。看守の掛け声で囚人たちが目を覚ます。男も起床し、枕元の時計を見る。するとそこには目を疑う文字が浮かんでいた。 2020年 2月30日 5時01分 あれ?今日は3月1日のはずじゃ?と思った。 不思議に思いながらも、男はまたいつも通りに何も起こらない平凡な一日を過ごした。そして再びまた眠りにつく。 朝の5時。看守の掛け声で囚人たちが目を覚ます。男も起床し、すぐさま時計を見る。するとそこにはまた、 2020年 2月30日 5時01分 と表記されていた。 そういえば、看守の掛け声が3回連続で同じやつだったし、周りの人間の言動や行動も昨日とまるっきり一緒だったなと男は思った。そして男はこう思った。 「2月30日がずっとループしていて終わらないのだ」と。 そして男はその平凡な一日の中で必死にループから脱出する方法を探すも、見つからないまま、また一日が終わり、眠りについてしまった。 朝の5時。看守の掛け声で囚人たちが目を覚ます。男も起床し、一応時計に目を移す。 2020年 2月30日 5時01分 まただ。また2月30日を繰り返している。どうにか脱出せねば、と男は思った。 そして今度は隅から隅までループから脱出する方法を模索した。 だが結局、夜に自分の牢屋に戻るまでに脱出方法を見つけることは出来ず、男はいつも通り牢屋の中に戻ってしまった。 しかし男はある事に気付いた。 「カレンダー、バツつけてなかったな...ん?まさか...これか!」 そう、今まで2月30日が終わってもバツ印をカレンダーにつけていなかったのだ。 それに気付いた男はすぐにカレンダーの30日の部分に大きくバツ印をつけた。 (これで、明日には3月1日を無事迎えるはず..) 男はその祈りも込めて眠りについた。 朝の5時。看守の掛け声で囚人たちが目を覚ます。男はすぐさま時計を見る。時計には、 2020年 3月1日 5時1分 と表記されていた。 (ようやく、抜け出せた...これでいいんだ) 男は心の底から安堵した。ようやくループ地獄から抜け出せたのだ。 そして男はルームメイトなどと3月1日を有意義に過ごし、一日を終えようとしていた。 男はルームメイトと共に牢屋に戻り、床についた。すると、ルームメイトの男がこんな話をしてきた。 「いやあ実はよ、俺もカレンダーで1つミスしちまってよ、3月1日の次にもう一個1日入れちゃったんだよ〜!笑」 「それがほんとだったらやべえじゃねえか!そのこと看守には言ったのか?」 「言ってねえ。それに、まだそのミスはまだバレてねえ」 そんな冗談混じりな会話をルームメイトの男と交わし、眠りについた。 朝の5時。看守の掛け声で囚人たちが目を覚ます。この時、男はある異変に気付いた。 (あれ?起床担当の看守が昨日と同じ?まあ、気のせいか...) そして男が時計を見ると、時計には、 2020年 3月1日 5時01分 と表記されており、これを見た男は、 「もう勘弁してくれー!」と牢屋の中で叫んだ。
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