悪銭、身につかず

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小高い丘の先に立ち並ぶマンション。その中でも際立って高さを誇る鉄筋コンクリートの塔。オートロックを解除すれば艶やかな大理石の床が真っ直ぐ伸びていて、導かれるようにエレベーターに乗り込む。上昇の間もその振動は感じられず、元の場所から一ミリも移動していないような心地のまま、ポンと軽やかな音が鳴った。 カードキーを差し込み重い扉を開けば眼前に広がるのは先程の丘、仲良く並ぶマンション群のフォルム。 猫に小判、豚に真珠。価値の分からないものに与えても仕方がない。でも俺は猫よりも豚よりも可愛げがないのだろう。一般的にペントハウスと呼ばれるがらんどうな入れ物に腰を下ろし、リュックからノートパソコンを取り出す。USBを差し込んで、読込を待った。 「お金がないって怖いですね」 呟いた言葉は、誰に聞かれる事もない。
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