悪銭、身につかず

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※※ 人生の一大事。たった十三年しか生きていない僕が言うのはおかしいのかもしれない。でもほら、僕はいつか本で読んだことわざを思い出した。カエル。違う、かわず。井の中の蛙、大海を知らず。いつだって僕は、僕だけの世界で精一杯。両手に持ち得るだけの小さな小さな僕の世界。その世界が壊れそうだから仕方ない。お金がなければ生きていけない。だから、これは生きるため。 震える僕の手はスローモーションをかけたように伸びていって、長方形の形を保ったビニール袋に触れる。僅かな音のはずなのに、店中に響き渡った気がするのは僕の気が小さいからだろうか。 鼓動がばくんばくんと跳ね上がる。うまくいくかな。このまま一旦奥の通路に、それから曲がってレジの脇をすり抜けて、何食わぬ顔で店を出る。欲しいものがなかった。あるいは財布を忘れてしまった。大丈夫。何度も何度も頭で繰り返して、不自然にならないくらいには下見をしたんだ。 僕は黙々と歩みを進める。気配を殺して一歩一歩、ゴールに近付く。いいぞ、すれ違うのはプラスチックの買い物カゴを手にさげた女の人ばかり。みんなそれぞれの買い物に夢中だから僕の事なんて気にも留めない。ちらりと横目で確認したレジも程よくお客さんで埋まっているからか、付近に店員の姿は見当たらない。 やった、成功だ!ほっと一息、安堵した瞬間。 視線を感じた。 気のせいだと思いたくて、恐る恐る顔を上げると3メートル先くらいに男の人が立っている。灰色のパーカーのフードを深く被っているから顔はよく見えない。僕より20センチ以上高そうな身長に、膝の所が破けたジーンズ。海外映画で見た軍隊の人が履くような紐の多いゴツゴツしたブーツ。怖い。スーパーに似つかわしくない、妙な雰囲気が濃く漂っていた。 一度は落ち着いたはずの心音が和太鼓を叩くように響く。 変な所があったのかな。怪しまれた?もしかしてあの(・・・)見られていた?それともただの勘違い?ドンドンドンドン、うるさいくらいの胸の振動が、これ以上近付いたら聞こえてしまいそうだ。 2メートル、1メートル。その距離は縮まって、とうとう体がすれ違ったーーー
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