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ユキちゃんは僕の描く絵が好きだといって、どこかに行きたいなんて一言も言わなかった。もう五年生にもなるのに、僕は缶ジュース一本買えない。やっぱり公園や裏山や川で絵を描いているのだけど、喉が渇いたときはいつもユキちゃんが缶ジュースを奢ってくれる。
いつもごめんねと謝るとユキちゃんは、にかっとそばかすの頬にえくぼを見せる。
「いつか返してもらうからいいの」
そんなときは、ユキちゃんのそばかすが輝いて見える。そばかすの女の子には笑顔がよく似合う。五年生の夏もユキちゃんとずっといた。そんな生活は中学生までだと思っていたが、中学生になっても時間の過ごし方は同じだった。
「なぁなぁ、お前ら付き合ってんの?」
中学生になるとまわりは色気づいて、僕がユキちゃんをスケッチしているとそんな聞き方をしてくる奴もいる。
「どうだろ?」
僕がすっとぼけるとユキちゃんは、聞いた男子に微笑みを向ける。
「この子は絵を描くことが恋人なんだよ。ね?」
ね?と言われれば、うんと頷いてしまう。ユキちゃんは可愛いけど、恋人じゃない。僕もユキちゃんの家に行くし、ユキちゃんも僕の家に来る。お互いの両親の眼差しは期待に満ちているけど、ユキちゃんは恋人というより僕の絵のファンなんだ。
中学生になり、お互いにスマホを持ち、SNSを一緒にはじめて、僕はそこに絵を投稿する。最初にいいねを付けてくれるのはやっぱりユキちゃん。
相変わらず僕は画材にお金を費やして金欠。飲み物やおやつは、いつもユキちゃんが持ってきてくれる。
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