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闇に魅入られし者を弔う姫
怪物は舌で首を締めつけながら、自分の方へとわたしを引き寄せていった。
――許して……こんなところで終わるわけにはいかないの!
わたしは巻きついた舌を両手で掴むと、身体の奥底から沸き上がる力を両手に込めた。
次の瞬間、両腕に青白い火花が散り、炎の塊が長い舌を伝って怪物の顔面を直撃した。
「ぎゃああっ!」
絶叫が聞こえるのと同時に巨大な物体がわたしにのしかかり、視界が闇に閉ざされた。
必死で手足を伸ばし、どうにか怪物の下から這いだしたわたしは、荒い息を吐きながらその場にうずくまった。顔を上げると怪物が形を変え、じわじわと縮んで行くのが見えた。
「……まさか!」
巨大な体を大量の体液に変えて放出したかのように、怪物だった人間はわたしの前に小さくなって横たわっていた。
「明日実……あなただったのね」
衰弱しきった様子でわたしの前に横たわっていたのは、明日実だった。
「桃華……私って馬鹿だよね。自分をわかってくれる人を探してるうちに、こんなことになってしまって……」
「ごめんね明日実、わたしのせいでこんな風になってしまって」
「あなたのせいじゃないわ、桃華。私はどうせもうすぐ終わる運命だったの。あなたはただ、狂ったわたしを止めようとしただけ」
「そんなこと言っちゃだめよ、明日実。せっかく元に戻ったんだもの。街に戻ってまた、あなたの歌を……」
わたしの言葉を最後まで聞くことなく、明日実はぐったりと崩れて動かなくなった。
「……あなたのせいじゃありません。これがここに暮らす、不適応者たちの末路なのです」
蔵内の言葉にわたしは項垂れた。こんなことが許されていいはずはない。わたしは顔を上げ、蔵内の方を向くと「ここの人たちは、わたしたちが必ず助け出します」と言った。
こんな思いはたくさんだ、とわたしは思った。わたしがここへ呼ばれたのは怪物になるためでも、絶望を味わうためでもない。闇に囚われた人たちを、救い出すためなのだから。
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