またしても囚われの姫

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またしても囚われの姫

 気がつくとわたしは、闇の中にいた。  硬く冷たい感触を感じて起きあがったわたしは、自分が最悪の場所にいることを悟った。  正面には鉄格子が見え、その向こうには左右に檻が並ぶ陰鬱な風景があった。  ――まさか、先生の代わりの今度はわたしが?  わたしの直感を裏付けるように周囲には獣じみた臭気が満ち、威嚇するような唸り声があちこちから聞こえた。  先生もここにはいないようだし、どうにかして逃げなければ。わたしがそう思った直後、鉄格子越しに見える通路を、人影がこちらに向かってやって来るのが見えた。   ――あれは?  人影が顔の分かる距離にまで近づいた瞬間、わたしは思わずあっと叫んでいた。  スーツに身を包んだ見覚えのある男性――まっすぐわたしの前にやってきたのは、吉良先生の恋人、上埜洋行だった。 「ごぶさたしてます、月城さん」  上埜は鉄格子越しに微笑むと、わたしに挨拶した。 「あなた、『王虎塾』の人間だったのね。恋人をあんなふうにされて平気なの?」  わたしが問い質すと、上埜は悲し気な表情になり、頭を振った。 「あなたにはわからない。こうなったのは彩芽自身の意思です。僕は彼女に寄り添う覚悟でここに来ました。すべては最初から決まっていたのです」 「どういうこと?吉良先生が進んで『王虎塾』のモルモットになったってこと?」 「そのように思えるのも無理はありません。とにかく彼女にはこれしか道がないのです」  わたしは失望した。どう説得しても上埜には先生を救出する気はないようだ。 「それよりご自身の身の上を心配された方がいいんじゃないですか、月城さん」 「どういうこと?わたしをけだものにでもする気?」 「それはあなたの『適性』次第です。考えようによっては、獣になるのもそう悪くはないかもしれませんよ」  上埜は謎めいた言葉を残すとわたしに背を向け、もと来た方へと去っていった。  わたしは鉄格子の扉を掴むと、前後に力任せに揺さぶった。錆びついてはいるが、力でこじあけられるようなやわな物ではなさそうだ。鍵が外から掛けられており、壊すのには特殊な道具が要りそうだった。  わたしは錆びだらけの鉄格子を握りしめ、自分の身体に呼びかけた。  ――お願い、目覚めて。  だが、しばらく経ってもわたしの身体は何の反応も示さなかった。意識を失っている間に、あの能力を沈黙させる気体を嗅がされたのに違いない。  わたしが電撃による扉の破壊をあきらめ、鍵を壊すための道具になりそうな物はないかと檻の中を見回した、その時だった。  床に近い壁の一角が動いて四角い穴が見えたかと思うと、握り拳ほどの黒い影が現れた。  ――なんだ?  影は次々と穴から群れをなして現れ、わたしの身体を取り囲んだ。それは一言で言うなら頭のない鼠とでもいうべき生き物だった。
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