気づきたくなかった

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学校の教師ってのは面倒ごとが多い。 授業の準備やテストの採点だけでも大変なのに、部活の顧問までやらされる。 まぁ、でも、今回は楽できるかもしれない。 去年まではバスケ部の顧問だったが、運動のできない俺には務まらないと気づいたのか、はたまたやる気がないことがバレてクビになったのか。新年度からは別の部の顧問になった。 ――園芸部。いや、もはやこれは部とは言えないのではないだろうか。部員が各学年に一人ずつしかいないのだから。 「先生、花壇に新しい花を植えたいのですが」 抑揚のない声に振り向くと、園芸部部長――小関唯香(おぜきゆいか)――が立っていた。小関は去年、つまり彼女が二年のときに俺のクラスの生徒だった。口数は少ない印象だが、人当たりの良さそうな笑顔のせいか、いつも友人に囲まれているように見えた。優等生タイプだな、と思った。 「先生、瀬崎(せざき)先生。聞いてますか?」 今度は少し苛立ちを含んだ声で小関は俺を呼んだ。 「聞いてるけど。それって俺なんかする必要あるの?」 顧問と言われても花には詳しくないし、好きにしてくれていいのにと面倒くささを(あら)わにして返事をする。 「苗、見に行きたいので一緒に来てください」 「は? なんで?」 想像もしていなかった内容に、教師らしからぬ返事をしてしまった。もっとも、俺はいつもこんな調子だから、小関は驚いた様子はなかった。 「瀬崎先生は園芸部の顧問だからです。……それと、ちょっと力仕事になりそうなので、男手が必要です」 後半は何故か上目遣いで甘えるように言われたように感じ、心臓が小さく跳ねた。 「わかったよ、行けばいいんだろ。ちなみに他の部員は?」 重たい腰を持ち上げ、周囲を確認したが、小関以外の部員は来ていないようだった。 「花壇の手入れをしてくれています。帰ったらすぐ植え付けをしますので」 これから苗を見に行って、帰ってきて、植える……? なかなかハードな一日だな。 車のキーをポケットに入れて、すでに先を歩く小関を追いかけた。
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