気づきたくなかった

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「先生、どこに行くんですか?」 門はこっちだ、と(いぶか)しげに小関は俺のことを見ていた。 「力仕事になるなら車で行ったほうが楽だろ。そこで待ってろ」 駐車場から車を出して、小関の前で停まると、彼女は助手席ではなく、後部座席に乗り込んだ。 「前に乗らないの?」 ごく当たり前の質問をしたつもりだった。二人しか乗らないのに後部座席に座られると、なんというかバランスが悪い。 小関は少し頬を染め、首を左右に振った。 「先生、運転できるんですね。意外です」 ミラー越しに目が合うと、彼女はそう言った。 「意外か? 車だと通勤楽だから乗ってるだけだよ。場所は? どこ行けばいい?」 小関は花屋の名前を言ったが、俺にはピンとこない。 「わかんねぇな。地図とかない?」 ちょっと待ってください、と小関はスマートフォンを取り出した。俺は眉を(しか)めながら調べ物をする彼女をミラー越しに見ていた。 「地図に載ってないです……」 顔を上げた彼女は今にも泣きだしそうな表情をしていた。小さい店なら載ってなくてもおかしくはないのに、そんな顔するかよ。 「あぁ、もう。お前やっぱこっち座れ。お前が道案内すればいいだけだろ」 助手席をパンパンと叩いてみせると、小関は静かにシートベルトを外し、一度車を降りて、ようやく俺の隣に落ち着いた。 「助手席なんて、座ってよかったんですか?」 言っている意味がよくわからない。座れって言ったろうが。と心の中で悪態をつく。 「彼女とか、怒らないですか?」 小関はまた、上目遣いで俺を見た。さっきまで涙を(こら)えていたその目で。思わず視線を逸らす。 「彼女なんていないから」 そう吐き捨てると、彼女は安堵したように小さく息を漏らした。
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