56人が本棚に入れています
本棚に追加
花屋に着くと、小関は踊るように店内を見て回った。よっぽど花が好きなんだろう。俺は花を見るより、コイツを見てるほうが面白いな、と思った。
小関はある花の前で足を止めた。
花とその近くのカードを真剣に見ている。
「それにするのか?」
肩から覗くように声をかけると、小関は手に取っていたカードをサッとポケットにしまった。いいのかよ、と思ったが、店内の至るところに花とセットでカードが置かれていて、ご自由にお持ち帰りくださいと書かれていた。
「はい、これがいいです」
小関はそわそわとしながら答えた。
「なんていう花?」
「リナリア、です。姫金魚草ともいうみたいです」
小さな花がたくさん集まって咲いている様子は、確かに水草に集まる金魚のようにも見えた。
「いろんな色あるけど、どれにすんの?」
同じ花なのに色が違うだけでだいぶ雰囲気が変わる。赤と黄色のカラーリングのものは、結構どぎつい。そうかと思えば、白や淡い紫のものは繊細な雰囲気だった。
「白、薄紫、ピンクを並べたらすっごくかわいいと思うんですけど、そんなに買えるかな……」
小関は部員から集めたのであろう、封筒の中のお金を確認していた。
「足りなかったら、進級祝いってことで俺が補填してやるよ」
何度も花と封筒を見て、ブツブツと計算している彼女がなんだかいじらしく見え、ついそう言ってしまった。
「いいんですか?」
そう言って顔を上げたときの表情は、なんていうか、花が咲いたみたいに綺麗だった。
最初のコメントを投稿しよう!