気づきたくなかった

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花屋に着くと、小関は踊るように店内を見て回った。よっぽど花が好きなんだろう。俺は花を見るより、コイツを見てるほうが面白いな、と思った。 小関はある花の前で足を止めた。 花とその近くのカードを真剣に見ている。 「それにするのか?」 肩から覗くように声をかけると、小関は手に取っていたカードをサッとポケットにしまった。いいのかよ、と思ったが、店内の至るところに花とセットでカードが置かれていて、ご自由にお持ち帰りくださいと書かれていた。 「はい、これがいいです」 小関はそわそわとしながら答えた。 「なんていう花?」 「リナリア、です。姫金魚草ともいうみたいです」 小さな花がたくさん集まって咲いている様子は、確かに水草に集まる金魚のようにも見えた。 「いろんな色あるけど、どれにすんの?」 同じ花なのに色が違うだけでだいぶ雰囲気が変わる。赤と黄色のカラーリングのものは、結構どぎつい。そうかと思えば、白や淡い紫のものは繊細な雰囲気だった。 「白、薄紫、ピンクを並べたらすっごくかわいいと思うんですけど、そんなに買えるかな……」 小関は部員から集めたのであろう、封筒の中のお金を確認していた。 「足りなかったら、進級祝いってことで俺が補填してやるよ」 何度も花と封筒を見て、ブツブツと計算している彼女がなんだかいじらしく見え、ついそう言ってしまった。 「いいんですか?」 そう言って顔を上げたときの表情は、なんていうか、花が咲いたみたいに綺麗だった。
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