気づきたくなかった

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俺の園芸部顧問としての活動は、ほとんどなかった。この日みたいに力仕事が必要なときにアテにされるくらいで、基本的には職員室や教室から部員の彼女たちを見守るだけだった。 ときには手を泥だらけにしながら、真剣に草花と向き合う彼女たちは結構かっこいい。それで、やっと花が咲いたときなんかは、本当に嬉しそうに笑うので、可愛らしい。 「先生、やっと咲いたよ」 部員たちの様子を見て、開花したのだろうとわかっているのだが、彼女たちは毎回のようにわざわざ俺を呼びに来て花を見てほしい、と言うのだ。俺は気の利いたことなんか言えなくて、よかったなって少しだけ笑う。そんなときには大体小関と目が合う。そして、彼女は少し頬を染めて微笑むのだった。 そんな俺と彼女たちの日々は、あっという間に季節を越えてしまった。 卒業式の日だが、三年の担任でもない俺にとっては特別な日でも何でもない。 仲間たちと別れる寂しさやこれからの未来への期待など、生徒たちは様々な想いを胸に抱えているのだろう。 生徒たちのセンチメンタルな雰囲気に侵食されたのか、俺は園芸部員たちが世話をしている花壇の前に来ていた。相変わらず花には興味はないが、一つだけ覚えたものがある。姫金魚草。 「先生、花、好きになりましたか?」 振り返ると小関唯香が立っていた。胸元には『祝卒業』という文字と安っぽい造花のブローチをつけている。 「別に、嫌いでも好きでもない」 花自体への興味は変わらない。でも、園芸部の活動は割と好きだと思った。 「卒業、おめでとう」 そう声をかけると、小関は柔らかく微笑んだ。何か言いたそうにして、結局何も言わずに頭を下げて去っていった。 小関唯香が卒業した後も、俺は引き続き園芸部顧問だった。 相変わらず部員は少なくて、毎年一人の生徒を見送った。
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