ちぐはぐな僕ら

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僕に興味がある、と君は言った。 僕のことはなんでも知りたい、と君は言った。 僕も君に興味を持った。 僕も君のことを、なんでもとまでは言わなくても知りたいと思った。 その言葉通りだったら良かったのにな。 君が僕に興味を持っていて、僕も君に興味を持って。 *********** 君が昼食を食べている僕のところまで来て、わざわざ隣に座って、僕の髪の毛を指先でくるくると弄る。 「ねぇ、ベタベタしすぎじゃない?本当大好きすぎじゃん」 そう言って友人が揶揄う。 側から見たら、そう見えるのかも。 そう見えるように君は振る舞っているから。 僕は少し鬱陶しげに君の手を払う。 「あー、またフラれてるー。懲りないねー」 これを見るとみんなは、君の好き好き攻撃に僕がうんざりしているって、そういう風に受け取る。 僕は君に興味がないと思われてる。 本当は、興味持ってるし好き好き攻撃も嬉しかったりするのに。 「だって好きだから」 愛おしくて堪らない、とでも言いたげな表情で呟く。 嘘つくの下手だな。言葉が浮いてて、声が無表情だ。 なんとなく、そう感じる。僕だけなのか、誰も気がつく様子はないけれど。 結構長い間この状態が続いているからか何故か、声に含まれる感情が分かるようになってしまった。ような気がする。 好きなもののことを話す時は冷静な顔をしていても声が嬉しそうで、喧嘩を売られると何も気にしてないかのような笑顔でも声が怒っていて、 僕に好きだと告げる時は、どれだけ甘くて優しい表情をしていても声に感情がない。 分からなかった方が何も気にしなくて済んで幸せだったろうに… 伝わってくる無という感情は、いつも僕の心にチクリチクリと針みたいに刺さってくる。 怒りや呆れが比にならないほど痛い。 だって、無ってことは無関心ってことなんだろうから。好きよりもっと違う次元。 針で刺されるたびに心はどんどん冷えていって、もう南極レベルまで冷えてる。 そのはずなのに、この嘘に顔が熱くなってしまいそうになるのは何でなんだろう。僕ってひょっとしてとんでもないバカなのかな。 「あーもう、甘ったるすぎて見てらんない。他所でやってよ」 しっしっ、と手で追い払われ苦笑する。 そんな甘いもんじゃない。 寧ろ苦くて苦くて吐き出したいくらいだ。 「ねぇ、いつまで続けるの?」 こんな茶番。 いつまで、好きでもない、興味すらない人間に愛を囁き続けるの? 顔を思いきり顰めて、尋ねる。 「さぁ」 君は少し驚いた顔をして、それからいつもの、恋人を見つめるみたいな顔をして無表情な声で呟き首を傾げた。 それでもいいか、なんて思ってしまう。 君が僕のことなんか好きじゃないこととか、その事実に内心泣きそうになってることとか、いつかこの関係に君が飽きて終わりが来るだろうこととか。そんなことはどうでもよくなってくる。 さっきまで吐き出したいとか思ってたこの苦さを、それでも今は手放したくなくて、僕は、どうして始まったのかすら分からないちぐはぐな関係に、顔だけは無表情なままで、縋り付く。
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