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ふぁぁ
眠い目を擦りながら受ける授業は苦痛以外の何者でもない。
周囲からはヒソヒソした話声や、ノートを取る鉛筆の音が聞こえてくる。
板書を取る先生の後ろ姿を見つめていると、詩織の後ろ姿と重なった。
中年太りしている先生と、華奢な詩織は似ても似つかない。しかし、脳内に浮かび上がった詩織は本物のように、いや、本物よりも都合よく動いている。
何をしているかは伏せておくが、彼の妄想の中の詩織は、とっくに幼馴染の姉弟分という関係を脱ていた。
それもそのはず、郁人は恋の病にかかって早4年間が経っているのだ。しかし、その気持ちを恋だと疑ったことは一度たりとも無かった。
この妄想も、正気では受け入れずとも本能が受け入れたという形の具現化に過ぎない。
だが、その妄想で顔が熱くなっていることに気づくのは、時間の問題だろう。
でもその前に、郁人の顔面に白いチョークがぶつかった。「へごっ」と悲鳴未満の言を発して、後ろへつんのめる。
「イっター」周囲から笑い声が聞こえてくる。
たかがチョーク、されどチョークがもろ顔面にぶつかれば痛いものだ。涙目になりながら前を向くと、中年太りの先生が鬼の形相で立っていた。
「授業中はよそみしないの」
その日、郁人の宿題はいつもの1.5倍になった。
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