出会いはランチどきに

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「………。」 「………。」 ……何だ? お気に入りの喫茶店で昼飯食いながら、午後の会議に向けて、資料と今日の株価のチェックをしてたら、隣に座っている女がこっちをじっと見てる。 目の端でしか捕らえられないその姿 メガネをかけてるメガネ女子。 なんの躊躇いもなく、俺を隣からガン見してる。 「…何か。」 顔はタブレット画面に向けたままそう話しかけた。 けれど、俺の突然の問いにも顔色一つ変えない。 「すみません…。熱心にタブレットを観ていらっしゃる姿に…つい。」 あ…認めるんだ。 『何でもありません!』とか言って顔を赤らめる…的なものを想像していた俺はその返答にちょっと驚いて思わず視線をタブレットからその人へと移した。 大きめの黒縁フレームで若干鼻眼鏡。にっこりと口元に笑みを浮かべてる。 ふ~ん…悪くないかも。 でも、あんまり目が笑ってないね。 その厚ぼったいレンズのメガネを通しても分かる位。 「タブレットとにらめっこしてる俺の姿、そんなに面白かった?」 …ちょっと『悪くない』とか勝手に思ってね。興味が出ると、こうやって優しくし話しかけちゃって。 男ってほんとダメな生き物だわ。 「はい。とっても素敵でしたよ。」 俺の邪心なんて、なんのその。躊躇も無くそう言って微笑む彼女のゆったりした空気感に、不覚にもドキッとしてしまう。 俺の表情が硬くなったのがわかったのか 「あっ!すみません。そんな事急に言われたら気持ち悪いですよね…。」 がさごそと自分の鞄から名刺を取り出すと、それを俺の前に差し出した。 「『優港社 漫画部 スイートピー 編集者 北村実波』…。」 声に出して読み上げると、少し苦笑い。 「漫画の事考えると、人間観察してしまうもので…。」 「それって…『ネタ探し』的なこと?」 「…すみません。失礼な事を。」 「いや、全然。」 だって、俺、あなたのメガネにかなったって事でしょ? ちょっとだけ期待を込めて「で?俺はネタになりそう?」って冗談混じりに聞いてみた。 そしたら、今まで笑っていなかった瞳が急にぱっと輝いて満面の笑みに変わってさ 「もちろん!主役のイケメン男子です!」なんて言われたから その笑顔に心丸ごと持ってかれた。 この出会いが俺にとってラッキーだったかどうか それがわかるのはずっと…先の事。
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