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<サクくん、君を随分悩ませてしまったようだね。やっぱり『導き』を探すのはやめたい?秘密を守ってくれるなら、神龍の望みどおり、『導き』を探さないことにしてもいいよ>
ルチルさんは、優しく微笑んでいる。
<僕自身が『導き』を探すと決めたのに、探すべきなのか迷ってしまいました…>
<じゃあ、こう考えればいい。『すべきこと』じゃなくて、サクくんが『したいこと』は何?>
『したいこと』。それなら気持ちは決まっている。
<僕は、神龍を助けたいです>
<サクくんは全然迷ってない。自分の気持ちに従った方が後悔はないと思うよ。未来のことをあれこれと想像しても、未来は誰にもわからない。まだ起きていないことを心配するより、今できることをした方がいい>
<僕は、神龍の命を助けたいです。『導き』は神龍と出会うことで辛い思いをするかもしれません。でも命があれば、神龍も『導き』も幸せに暮らせる方法が見つかるかもしれません>
<サクくんはそう言ってくれると思った。私も神龍を死なせたくない>
神龍や『導き』について分からないことが、頭の中を渦巻いている。
<『導き』はどうやって神龍の子を生んだんですか?『導き』はどんな特徴がありますか?>
神龍の母親はどうやって巨大な神龍の子を生んだんだろう。『導き』は龍の姿になれる特別な人なのかな?
ルチルさんは、本当に驚いた顔をしている。
<とんでもない誤解があるようだな。神龍は普段は人の姿で、ベリル領の若い男と変わりはない。ベリル領の領主邸で暮らしている。神龍の力を使うときだけ、龍の姿になるんだ。神龍も人の姿で生まれた。『導き』も外見は他の人と変わらない。先代の『導き』はアサギ国の美しい女性だった>
<神龍は山頂に龍の姿で暮らしていると思ってました…>
僕が読んだ絵本では、大きな龍が山の上で寝ていた。時々空を飛び、雨を降らせていた。
僕は神龍のことを何もわかってなかった。
<ルチルさんは、どうして神龍の侍従になったんですか?>
神龍は『導き』は拒絶しているのに、侍従は受け入れている。どうしてなんだろう。
<うちは代々神龍の侍従の家系なんだ。でも神龍から強要されているわけてない。一族の中で、侍従になりたい者が神龍に申し出ている。私の母は先代の神龍の侍従だった。生まれたばかりの神龍を見たときから、私は神龍の侍従になりたいと思っていた。
神龍の反対を押し切って無理やり侍従になったんだ>
無理やり?思わずルチルさんをじっと見てしまった。ルチルさんはクスリと笑った。
<神龍は侍従もいらないと言っていた。侍従は神龍の影だ。神龍が存在する限り次の侍従に引き継ぐまで、私の母は侍従をやめられない。『いつまでも私の母を侍従として縛るのか?』と脅した。神龍は母を解放するために私と契約した。
私は神龍を守りたい。神龍が望まなくても、必ず『導き』を連れて帰る>
ルチルさんが左手を差し出したから、僕も左手を出した。
手のひらの中の石が、少し温かくなった気がした。
地下室から出ると、ユキ父さんが僕をじっと見てる。ルチルさんに微笑んで挨拶してくれたけど、いつもよりぎこちない気がする。
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