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図書館で働こう
次の日、放課後の水やりを手早く済ませて、中央図書館に向かう。中央図書館は王都一の大きさの図書館で、高校からもパン屋からも徒歩15分程で行ける。小さな頃から何度も通っているから、司書さんたちとは顔なじみだ。
赤いレンガの壁が美しく、歴史を感じられる知の宝庫。中を覗いてみると、レファレンスカウンターに、小さな頃からお世話になっているユズルさんがいた。ユズルさんは本当に落ち着いた雰囲気の人で、図書館の一部ように馴染んでる。ウエーブのかかった長い髪を後ろで縛っていて、すらっとした長身だ。外見は僕の小さな頃から全然変わらないように見える。
僕は『神龍の導き』を探す。この国のどこかにいる『神龍の導き』に偶然会うには、多くの人に会える場所に行った方がいいんじゃないかと思う。同年代の女の子なら図書館に来るかもしるない。
ユズルさんの座るカウンター前に立つと、微笑んでくれた。
「ユズルさん、僕、ここでアルバイトさせていただきたいです」
人の集まる場所といって思いついたのは、市場か図書館。図書館に「夏期アルバイト募集」の張り紙が張ってあったのを思い出した。夏の暑い時間に市場で働くのは、暑さに弱い僕には難しい。『神龍の導き』は学生かもしれないから、図書館に来てくれるのを待ってみることにした。
いつもの夏休みは、部活と店の手伝いをして過ごしてたけど、大学の学費のこともあるし、少しでもお金を稼ぎたいという気持ちもある。
「サクくんなら大歓迎だけど、受験勉強と部活で忙しいんじゃないの?」
ここには小さな頃から両親に連れられて通っている。最近は植物の本について、色々相談に乗ってもらっていた。大学進学のことも話していたから、ユズルさんは心配してくれてるみたいだ。
「もちろん受験も部活も頑張ります。でも色々な経験をしたいのでここで働らせていただきたいと思います」
「ご両親は賛成してるの?」
「まだ話してません。でもちゃんと話します」
小さな頃から図書館には父さん達に連れてきてもらっていた。ユズルさんは同性カップルの子で、明らかに両親に容姿が似ていない僕の立場をわかっていてくれている。
「サクくんのご両親はいつもサクくんを応援してくれてるみたいだね。色々な経験することは私も賛成する。
一応来週の土曜日に履歴書を持ってきて。館長に面接してもらうから」
「ありがとうございます。あと今日は、調べたいことがあります」
ユズルさんに神龍について書かれた本を探すのを手伝ってもらった。
神龍はベリル領の高山の頂に住む。
神龍は災害を鎮める。
神龍は人を献上することを求める。
献上された人は二度と帰らない。
ユズルさんに手伝ってもらって探したけど、やはり『導き』について書かれた本はない。本当は人の姿で、献上された人は神龍と愛し合っていたという記載もない。
神龍の絵本も久しぶりに見た。神龍は目つきが鋭くて、胴の長いワニのような姿だ。アサギ国での神龍の一般的なイメージはこれだと思う。
普段は人の姿で、お人好し。ルチルさんからの話とは一致しない。
僕はルチルさんの話が本当なんだと思っている。神龍に会って、自分の目で本当の姿を見てみたい。
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