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次の土曜日、麗しの館へのパンの配達を終え、図書館に向かった。
「サク・フローレスです。よろしくお願いします」
会議室に入って、丁寧にお辞儀をして、館長と向き合って座った。館長はアカシア・クラークさんという白髪の女性だ。知識が豊富で知の番人と呼ばれている。
「フローレスくんは、図書館は何のためにあると思う?」
館長は柔らかく微笑んでいる。
「図書館は知りたいという気持ちを手助けするためにあると思います」
「そうね。私は皆さんの手助けをしたい。
フローレスくんは、小さな頃から常連だってユズルから聞いてるわ。
夏は職員が交代で夏休みをとるから、アルバイトをしてくれると助かるわ。学校の夏休みが始まったら、ぜひ当館で働いて。この後、ユズルとアルバイトの時間を相談してね」
「ありがとうございます」
面接は一瞬で終わってしまった。採用されたみたいだ。せっかく知の番人に会えたんだから、聞いてみたいことがある。でも、お忙しい方だろうし…どうしよう…。
「何かが知りたいって顔をしてるわね。フローレスくんは何が知りたいの?」
館長は、身を乗り出してきた。目がキラキラしてる。
「神龍のことが知りたいです」
「先週、ユズルにも神龍の資料を依頼したそうね。フローレスくんの期待に応えられる資料を提示できなかったってユズルから聞いたわ。残念ながらこの図書館ではあれが限界。というか、神龍について書かれた資料はとても少ない。あれ以上のことを知りたかったら、直接ベリル領に行くしかないわね」
館長の表情が曇った。期待に応えられないことが、悔しいようだ。
「はい、わかりました。ありがとうございます」
知りたいことがわからなかったのは、残念だ。でもユズルさんが館長にも相談してくれたって聞いて嬉しくなった。ユズルさんは僕の知りたいことに充分応えられなかったって気にしてくれていたんだ。
「この国では災害がある度に神龍に頼っているのに、資料が少なすぎる。不自然だわ」
考え始めた知の番人は、近寄りがたい雰囲気で、僕は静かに部屋から出た。
ユズルさんはレファレンスカウンターにいた。館長の面接が無事終わって、ユズルさんとアルバイトの時間を相談するように言われたって言ったら、事務室に連れて行ってくれた。アルバイトの時間は平日の午前中にしてもらった。平日の午後と土日は勉強にあてよう。
「サクくんは、どうして神龍のことが知りたいの?」
ユズルさんが、不意に聞いてくる。ルチルさんとの約束があるから、詳しいことは言えない。何と答えたらいいか、戸惑ってしまう。
「ごめん。レファレンスの利用者に立ち入ったことを聞くのはルール違反だね」
僕は何も言えなかった。図書館の司書は、利用者にはプライバシーに関することは聞いてはいけないはずだ。いつも冷静で穏やかなユズルさんらしくない。どうしたんだろう?
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