図書館で働こう

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 僕の通っている高校に『神龍の導き』がいる可能性もあると思ったから、時々校内を歩いてみたけど、石に反応はなかった。そう簡単には見つからないようだ。  ルチルさんからは時々連絡があるから、近況報告をしている。「無理しないで夏休みを楽しんでね」と言ってくれている。  ある日、僕は少し怒っていた。ちょうどルチルさんから念話で連絡があって<楽しく過ごしてる?>って言われたから、愚痴かもしれないけど聞いてもらいたいと思った。 <これから暑くなるし、アルバイトのときに邪魔かなと思って、髪を短くすることにしたんです。家の近くのいつも行ってる理髪店に行ったら、店のおじさんが『アサヒは髪を短く切ってもいいって言ってるのか?』って言うんです。どうしてアサヒの許可が必要なのか聞いてみたら、『サクのことは、アサヒに無断ではできない』そうです。説明になってないし、納得できないです>  『本当の家族』が見つかる手がかりになるかもしれないって両親が言うから、髪は肩くらいまで伸ばしている。今年の夏はアルバイトをするから、両親やアサヒやタクミみたいに短くしようと思った。『本当の家族』に会いたいなんて思ってないし。  アサヒに髪を短くしていいかなんて聞くのもおかしいし、他の店にも行きづらいし、結局いつも通り揃えてもらうだけにした。仕方ないから邪魔なときは髪は縛ることにする。 <そうなんだ>ってルチルさんは曖昧な返事だった。きっと変だって思われたんだ。 <愚痴を言ってしまってすみません>  慌てて言った。 <いいんだ。サクくんのそういう日常の話が聞きたいし>  ルチルさんは、どうして僕の日常の話を聞きたいんだろう?『導き』探しをしっかりやっているかの確認かな?いつも優しく聞いてくれるから、つい色々話してしまう。  この国の台風の被害は10月に多い。台風の被害を避けるように誰かが神龍に願い、神龍は力を使って死んでしまうかもしれない。だから10月までには何とか『導き』を見つけたいと思ってる。見つかることを願ってる。  今日から、夏休みが始まる。いよいよ初めてのアルバイトも始まる。図書館からは「襟付きのシャツ、ジーンズ以外の長ズボン、エプロン」と服装の指定を受けたから、通学に使ってる白いポロシャツにベージュ色のチノパンにした。エプロンはユキ父さんの手作りだ。綺麗な青色のエプロンを作ってくれた。好きな色だし、すごく嬉しい。 「サク、くれぐれも無理しないようにね。ごめん、何か私が緊張してる」  初めてのアルバイトに出かける僕をユキ父さんが心配そうに見送ってくれた。もしも僕が体調を崩したら、ユキ父さんは心配しすぎて体調を崩しそうだ。絶対に無理はしないようにしよう。  図書館の事務室に行くとユズルさんが待っていてくれた。 「私がサクくんの教育係になったから、よろしくね」  ユズルさんはロッカーの場所を案内してくれた。 「サクくんには、貸出カウンターをお願いするね。利用者としては貸出の様子を見ているから、やることはわかるね」  本を借りたい人から貸出券を預かって、本の見返しに張ってある用紙の日付欄に返却期限日を記入する。隣のレファレンスカウンターにはユズルさんがいるから困ったときは助けてくれるそうだ。   「サク、野菜の育て方の本を読みにきた」とタクミがカウンター前に立ったときは驚いた。タクミはユズルさんにも笑顔で挨拶してる。ユズルさんに断って、園芸の棚に案内した。タクミは「野菜の育て方は我が家流が一番」と、実家の伝統の方法にこだわっている。タクミが他の方法も調べようと思ったのは、きっと他の方法も参考にしようと思ったんだろう。  貸出カウンターでは同じ作業を繰り返すだけでなくて、貸出券を忘れてしまった人への対応や、お問い合わせへの対応もあって、ドキドキした。ユズルさんが助けてくれたから、なんとか初めてのアルバイトは終わった。  図書館の中で『導き』に会えたらいいなって思って同年代の女の子がカウンターに来る度にドキドキしたけど、石の反応はなかった。 「サクくん、お疲れさま。昼ごはんはうちに帰って食べるの?」 「いいえ、昼ごはんを持ってきたのでどこかで食べて、午後は図書館で勉強します」  ユキ父さんが暑い中を歩いて帰るのを心配して、簡単な昼ごはんを持たせてくれた。ユキ父さんはいつも心配性すぎる。 「私も昼ごはんを持参してるから、一緒に食べよう」  ユズルさんは、中庭の木陰にあるベンチに案内してくれた。  
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