図書館で働こう

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 ユキ父さんが用意してくれたお昼ごはんは、ジン父さんのパンで、今日はイチジクのジャム入りのパンだった。それと、水筒に入った麦茶。  ユズルさんもパンと飲み物を持っている。  中庭のベンチは、木陰にあって中庭は風がよく通るからすごく快適だ。 「今日来た子は友達?」 「友達です。すみません、仕事中は話しかけようにいいます」 「彼は利用者として質問しただけだし、気にしないで大丈夫だよ。サクくんの友達も大変だなって思ってね」 「…はい…」  今日のタクミは大変だったのか?普段は滅多に来ない図書館に来たから?よくわからない。 「サクくんは好きな子はいないの?」 「女の子は綺麗だなって思いますけど、誰かの特別な人になりたいっていう気持ちはないです」 「じゃあ、男の子は?」 「うちは両親が男同士ですけど、男は友達としか考えたことないです。 僕、今まで恋愛という意味では誰かを好きになったことがないみたいです。誰かを好きになるってどんな気持ちですか?」  ユズルさんが恋愛話を振ってくるから、聞いてみた。ユズルさんは綺麗な眉を少し顰めた。何かを思い出してるみたい。 「一生、幸せを願う。一生、何があっても味方でいる…その自分の気持ちが変わらないことを信じられる…かな」  ユズルさんの笑顔が儚くて、なんだか苦しい。こんなに綺麗で大人なユズルさんでも恋は簡単ではないみたい。  学校内のカップルは明るく笑ってるように見えるけど、みんな真剣に相手を思っているんだろう。そう言えば、両親もお互いをすごく大切にしてる。  僕はタクミやアサヒの幸せを願ってるし、味方でいようって思ってる。でも恋愛の意味の好きではないと思う。 「友達への気持ちとの違いは何ですか?」 「恋なら、相手を見ていたいし、自分を見て欲しい。触りたいし、触って欲しいと思う。サクくんも好きになる人に出会えたら、わかると思うよ」  誰かを見ていたい…アサヒとタクミは大切だけど、そういう気持ちではない。そうか…やっぱり友達への気持ちとは違う気持ちだ。  ユズルさんは誰かを思い浮かべているみたいだ。 「私にもパートナーはいたけど、会えなくなったんだ。一緒に過ごしたことを後悔してないし、幸せな時間を過ごせた。今は彼の幸せを祈ってる。サクくんも好きな人ができたら、後悔を恐れずに向き合ってみるのをおすすめするよ」  ユズルさんが微笑むから、たまらない気持ちになる。僕もこんな風に誰かに心を捧げ、幸せを願うことができるだろうか。 「ごめんね。こんな話をして。 サクくんのパンは美味しそうだね。サクくん、私の分もうちからパンを持ってきてくれないかな?サクくんと同じパンでいいし、もちろんお金は払うから」  僕の暗くなった気持ちを振り払うようにユズルさんが明るく言ってくれた。 「ご注文ありがとうございます。次回から持ってきます」  ユズルさんは、知識が豊富で、優しくて、面倒見がよくて…こんな大人になりたいと思う。こんなにすごいユズルさんでも恋愛は難しいなら、僕には当分恋愛は無理だな。  ユズルさんがいつか好きな人に再会できるといいなって思う。
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