神龍

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神龍

 僕、サク・フローレスはアサギ国の王都でパン屋を営む両親と暮らしている。両親のパン屋「サクラパン」は堅実な経営で、素朴なパンはご近所さんの生活の一部になっている。  アサギ国はアサギ島にある小国だ。島の南側には王都や港があり、100万人ほどが住んでいる。僕も島の南側に住んでいる。島の北側には高い山があり、ベリル領という自治区になっている。1000人ほどが住んでいるそうだ。  僕は近所の公立高校の3年生。将来は両親のパン屋を継ぐつもりなので、少しでも将来の役に立つように大学では農業と食品を勉強しようと思っている。  この国では、ほとんどの人は高校卒業後は職業技術の学校に行くか、働いている。そんな中でも大学進学を後押ししてくれる両親に感謝している。 「サク、おはよう」  今日も隣の肉屋の次男、アサヒ・ブラウンが迎えに来た。アサヒとは幼い頃からの付き合いだ。アサヒはフライボール部員で、身長165センチ程の俺より20センチくらい身長が高い。ちなみにフライボールとは手のひら大のボール木の棒で打ち返す、アサギ国で一番人気のスポーツだ。  アサヒは黒髪の短髪で、体がガッチリしていて、なかなかのイケメンだ。実際、すごくモテていて、よく女子生徒だけでなく男子生徒からも告白されている。羨ましすぎる。俺は一度も告白されたことはない。アサヒを一言で言うなら「直球戦士」かな。裏表なく真っ直ぐで、ガチムチ。  僕は残念なことにガチムチじゃない。体育会系の部活は体力的に無理だし、植物が好きだから中学の頃から園芸部に所属している。園芸部では部員は自分が好きな植物を育てることができる。  小麦は乾燥した土地でよく育つけど、小麦の収穫期が雨季にあたるアサギ国ではパン用の良質な小麦を育てることが難しい。よくふくらむパンを作れるパン作りに適した良質な小麦は外国から輸入しているから高価だ。高価な小麦で作ったパンは一部の裕福な人しか食べることができない。  両親の庶民向けのパンは美味しいけど、みんなにより安くて美味しいパンを食べてもらえるように、園芸部の活動の一環で小麦の研究をしている。  小麦の畑以外の僕のスペースでは、一年を通してなるべく絶やさず、青い花を育てている。いつか神龍に会えたら、神龍の目のように美しい花をプレゼントしたい。  今は青い紫陽花が咲いている。
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