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台風
毎年夏が過ぎると台風の到来が心配な季節になる。
ルチルさんから念話でやはり僕を産んでくるた人は先代の神龍の妹だったと聞いた。やはり僕は神龍の従兄弟のようだ。僕は次の神龍になるのかもしれない。でも僕は『導き』でもあるみたいだ。神龍もルチルさんもこんなことの先例を知らないし、これからどうなるのかわからないそうだ。
「母さんの手紙にはどんなことが書いてあったんですか?」
「書いてある内容は私も聞いていない。神龍が話す気になったら神龍から聞くといいよ」
未だに神龍は念話を使って僕と話そうとはしない。
「そもそも神龍はいつどうやって生まれたんですか?」
アサギ国の図書館の本には詳しいことは何も書いていなかった。
「アサギ国は災害が多かったから、神龍は災害の多さを憂えた神からの贈り物だと伝えられている。ベリル領には歴代の神龍の手記があって、最初の神龍の手記は400年程前だ。暴風雨を鎮めようと祈りを捧げていた方の体に、神龍が宿ったそうだ」
「知りませんでした。アサギ国の図書館で神龍について書かれた本を探してみたけど、情報はとても少なかったんです。どうしてだと思いますか?」
「神龍は人との関わりを絶っている。ベリル領は神龍の隠れ家なんだ。神龍がアサギ国民の願いを叶える代わりに、アサギ国はベリル領に干渉しないと約束している。
神龍はアサギ国のたくさんの願いを叶えてきた。これ以上頼まれたら、神龍はもっと寿命を縮めるだろう。神龍はお人好しすぎて頼まれたことを断れないから、人になるべく関わらないようにしてるんだ。
関わらないように、知らせないようにしてるからアサギ国には神龍の情報は少ないんだと思う」
「アサギ国の人が神龍にたくさんのことを願うのは、神龍に貢いでいるから、貢ぎ物に見合ったことをしてほしいって思われているんだと思います」
「アサギ国から神龍は何ももらってない。どうしてサクくんは貢ぎ物をもらったって思ってるんだ?」
「ご存知ありませんか?アサギ国からは神龍に多くのお金や土地や財宝が支払われていると聞いてます」
「そんなこと、聞いたこともない。神龍は麗しの館のガイドたちよりも慎ましい生活をしている」
「時々神龍に召し上げられたものが新聞に載りますよ。最近は希少石を献上したそうですが」
図書館で読んだ新聞に、神龍から求められて、旧家の家宝だった希少石を神龍に献上したと載っていた。
「そんな希少石なんて、見たこともない。我々はアサギ国のことに無関心すぎるのかもしれない…」
台風が訪れそうなことは、もちろんルチルさんも心配していた。
「神龍はもちろん被害がありそうなら、力を使うんだろう。自分が死ぬだけなら、ためらいはないだろうね。でもサクくんが次の神龍かもしれない。神龍はどうするんだろうね…」
もしも神龍が死んでしまったら、僕が次の神龍になるのかもしれない。神龍が望んでいるように「神龍を終わらせること」はできないのかもしれない。神龍はどう考えているんだろう?
「サク、幸せになって欲しい…」
それは、小さいけれど、心に響く声だった。
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