神龍

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「サク、無理するなよ」  アサヒが心配してくれる。僕は湿度が高くて暑いのが、極端に苦手だ。急に気温が上がる今の時季は体調を崩すことがよくある。  でも今は雑草も成長が早くて、つい草むしりに夢中になってしまう。「草が生えてても死なないけど、サクは倒れたら死ぬかもしれない」は、アサヒの口癖だ。  アサヒはフライボール部の朝練、僕は毎朝植物の世話をする。  果実の木も先輩から受け継いで何本か育てている。もうじきイチジクとキウイフルーツが食べられそうだ。  それと、種から育てている麦。この地方の気候が多湿なのが、小麦の栽培に向かないようだ。ふんわりとしたパンを作れる小麦の種を取り寄せて、水や肥料を工夫しながら育てたけど、刈り取った小麦は豊作とは言えなかった。  先日登校の途中でアサヒに小麦の収穫の報告をした。僕の頭をアサヒはそっと撫でてくれた。中学の頃から色々な方法で何度もチャレンジしているけど、充分な収穫ができたことはない。落ち込んだ僕はいつもアサヒに慰めてもらってる。  この植物園は僕の庭のようなものだ。一つ一つの植物に朝の挨拶をする。  園芸部員は3年生2人と1年生2人の4人しかいない。それぞれが育てている植物も把握しているし、助け合ってる。 「サクは相変わらず、青い花が好きだな。ナスやトマトの花だって綺麗だぞ。しかも育てれば食べられる」    もう1人の3年生の部員、タクミ・パーカーは野菜を育てるのに力を入れている。タクミは実家の伝統的な方法が一番だって思っているけど、園芸部では自分一人の力でもで一通りできるように練習しているそうだ。僕が麦を収穫した後の畑に、タクミがナスやトマトなどの夏野菜を植えた。  タクミは卒業後、実家の農業を継ぐ予定だ。僕も野菜の花も綺麗だって思う。  タクミは一言で言えば「腹黒クマたん」かな。ふわっとした癖毛で、丸っこい体つきだから、外見はクマのようだ。タクミはいつもニコニコしている。一見可愛いキャラなのに、実は腹黒だ。優しそう、包容力ありそう、そんなイメージでこいつもモテる。   「サクの答えは知ってる。青い花は神龍へのプレゼントだろ。俺は強欲な神龍が花を見て喜ぶとは思えないし、神龍を喜ばせようという気持ちは微塵もない」  2年前、偶然見かけた神龍と目があった。神龍にプレゼントしたいから、神龍の瞳の色の花を育ててるとタクミに説明してある。タクミは上空を高速で飛んでる神龍と目があうはずはないと、信じてくれてない。  でも僕は、神龍と目が合った。そう信じている。  神龍はアサギ国の辺境に住んでいる。神龍は天候を操る能力があるらしく、災害が起きそうなとき、皆は神龍に祈る。  俺が神龍を見かけた2年前は、アサギ国に大きな台風が向かっていた。神龍は天空を飛び、台風の進路を変えたようだ。  避難所に行く途中で神龍を見かけ、湖の水のような美しい神龍の青い瞳を見た。  この国では神龍は敬われる存在だが、同時に憎まれている。神龍が課す重い税金で苦しんでいる人もいる。災害から助けてもらっているから仕方ない、多くの人はそう思っている。    タクミも神龍を嫌っている。「災害で困っている人の足元をみて、見返りを要求するなんて汚い。災害を防いでいるのだって本当かわからない」と言っていた。神龍への罵詈雑言は不敬罪として取り締まりの対象になるから、大っぴらには言えないけど。  僕が神龍に花を贈る花を育てているのは、タクミには放置されてる感じだ。
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