神龍

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 土曜日と日曜日は高校が休みだけど、植物の世話で高校に行くことが多い。植物たちへの挨拶が終わると両親のパン屋の手伝いをしている。ちなみにパン屋の裏が自宅だから、通勤時間ゼロだ。 「サク、配達を頼む」  店に入ると早速ジン父さんに頼まれた。ジン父さんは45歳。短髪黒髪でパン屋にしては目つきが鋭すぎると思う。用心棒なんて似合う。  ジン父さんのパンは固くて、こだわりがぎっしり詰まっていて、味が濃い。ふんわりとしたパン用の小麦は高価だから、ジン父さんはこの地方の安価な小麦で作っていて、日常で食べられる美味しいパンだ。ジン父さん自身は、自分の作ったパンのように素朴で力強い感じだ。 「その前にちゃんと水分補給をしてね。無理しないで。配達が大変なら私が行くよ」  ユキ父さんは、いつも優しい。僕に甘い。  ユキ父さんは笑顔が柔らかくて、近所のお年寄りから「いいお嫁さん」と人気がある。まあ、男だけど。  ユキ父さんとジン父さんは身長は変わらないくらいだけど、印象は真逆。2人は高校の同級生だそうだ。  2人は男同士のカップルだ。同性の結婚は認められているけど、同性のカップルでは子どもは作れないから、僕を養子にしてくれた。本当の親子じゃないことを忘れてしまうくらい、大切にしてくれている。  ほぼ毎日サクラパンでは、「麗しの館」と呼ばれる王宮の離宮にパンを納品している。住んでる人がどうしても食べたいと言ったから納品しているらしい。  麗しの館には特別な人たちが住んでいる。  アサギ国にはセンチネルと呼ばれる異能者が100人くらいいるそうだ。センチネルは五感が優れていて、社会の中枢を担っている優秀な人が多い。アサギ国の国王もセンチネルだ。国王は視覚が優れていて、遠く離れたところまで見ることができるらしい。  センチネルは能力を使うと消耗し、能力を使いすぎると死に至ることもある。そのセンチネルを癒す能力を持つ人はガイドと呼ばれている。ガイドは全て女性で、人数は非常に少ないそうだ。詳しくは明かされていないけど、10人くらいらしい。ガイドは他国に狙われる懸念から、ほとんどの時間を麗しの館で過ごしている。そんなガイドたちのためにサクラパンでは高級な素材を使ったフワフワのパンも作っている。  学校が休みの日はだいたい俺がパンを納品している。 「毎度ありがとうございます。サクラパンです」  プラスチックケースに入れて、今日はフワフワのロールパンを30個持ってきた。  麗しの館の裏口で声をかける。 「サク、ご苦労様」  すぐに厨房で一番若いハルト・スミスが出てきてくれた。ハルトは納品に来るたびに会うから、少し話すこともある。ハルトは調理師の専門学校を卒業して、ここで働き始めたばかりだそうで、僕より3歳年上だ。  ハルトは柔らかい雰囲気のイケメンだ。麗しの館で働く人は綺麗な人が多いから、もしかしたら採用は外見重視なのかもしれない。 「今日は、ガイド様たちに会いに神龍の侍従が来てるんだ」  ハルトは声を潜める。 「神龍の侍従!?」 「神龍の侍従は誰かを探しているみたいだ。もしかしたら、神龍に献上する人かも」  神龍もセンチネル、それも五感全ての能力者と言われている。何十年かに一度、アサギ国から神龍に人が献上されている。前回は二十年くらい前だった。神龍に献上された人は二度と帰ることはない。神龍に食べられているのではないかと言われている。
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