神龍

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 地下室は薄暗い。侍従の白い服がぼんやりと見える。 「いいね。ここなら近くに視覚と聴覚のセンチネルがいても話はわからないね。 地下室の入口に近づく人がいたら、話は遮るからね。 私は、ルチル・モラレス。神龍の侍従だ。ルチルと呼んでくれ。君の名前は?」 「僕の名前はサク・フローレスで、高校生です。サクと呼んでください」 「これから話すことは、他人に漏らせないことだから、サクくんには誓約してもらわないといけない。ベリル領の誓約は、この石を使う」  ルチルさんは皮のカバンから小さな箱を取り出した。箱の中には小指の爪くらいの小さな青い石が入っていた。 「これは菫青石(きんせいせき)だが、その中でも数少ない特別な石だ。これを手のひらの中に埋め込む。埋め込むと言っても体に傷は付かない。もしも誓約を破った場合はこの石がサクくんの心臓を止める。一旦体に入れたら、私が取り出すと決めるまでは、この石は取り出せない」 「ルチルさんの話を聞いて、協力できないと思った場合はどうなりますか?」  直感だけど、ルチルさんは犯罪に絡んでいたり、僕を騙したりはしていないと思う。でも確認は必要だ。 「なかなか慎重だ。当然の疑問だね。では少しだけ話して、これからは誓約が必要だというところで止めようか。そのときに誓約するか決めればいい」  僕は頷く。 「あと、多分、両親や親しい友達にはいつか様子がおかしいと疑われると思います」  父さんたちとアサヒとタクミ。多分いつか何かを隠してるってバレる。 「そのときは私に相談してくれればいい。悪いようにはしない。 神龍は天候を操れる力がある異能者、センチネルだ。『神龍の導き』とは神龍を癒すガイドだ。強大な力がある神龍はどのガイドでも癒せるわけではない。神龍を癒せるのはただ一人の『神龍の導き』だけだ」  神龍にとっては『神龍の導き』が唯一の存在。センチネルはガイドがいないと死に至ることもあると聞いたことがある。   「神龍は献上された人を食べると聞きました。『神龍の導き』を食べるなら、協力はできません」  神龍にとっては必要な人でも、殺してしまうなら協力はできない。  ルチルさんは苦笑している。 「神龍が『導き』を傷つけることは、絶対にない。先代の神龍と『導き』には会ったことがあるが、それは仲が良い番(つがい)だった」 「神龍に献上された人は二度と王都には戻らなかったと聞いたことがあります」 「『導き』は神龍から離れ難くて、王都に帰る気にはならなかったんだと思う」  そんなに強い絆がある『導き』を見つけられない神龍は、きっと辛いんだろう。 「あぁ、『導き』が見つからない神龍はとても苦しくて悲しいんですね」  2年前、僕が見た神龍はきっと『導き』の不在を嘆いていたんだ。  ルチルさんは何か考えているようだ。
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