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「石がサクくんを認めたら、手のひらの中に入る。私も手のひらに石が入っているけど、入るときに痛みはないよ。では、始める。
我、神龍の侍従ルチル・モラレスはサク・フローレスを石の所有者と認め、サクと誓約する。
サクは『神龍の導き』のことを、我が認めた以外の者に漏らさない。
我はサクが『神龍の導き』に出会えたときは、神龍の元に導く」
美しい青い石は、手のひらの中に埋まっていく。不思議と痛みはない。
すっかり石は手の中に埋まった。手のひらを握ったり開いたりしてみたけど、違和感はない。石を消す手品みたいだ。
「この石には不思議な力がある。心の中で私を呼べば、念話が出来る」
手紙を届けるには、伝書鳩に頼むのが一番速いけど、こんな方法があるなんてすごい。この石の存在が他人に知られただけで、大変なことになりそうだ。
「この石の力は神龍と、神龍周辺のものにしか使えない。他の人にっては、ただの青い石だ。念話を試してみようか」
僕は頷いた。
<サクくん、これから話すことは、誰にも話してはいけない>
目の前にいるルチルさんは口を動かしていないけど、声が頭の中に直接聞こえる。
<『神龍の導き』は、今までの例から考えると、神龍との年齢差は5歳以内、アサギ国のどこかにはいる。神龍が出会える場所に『導き』はいる>
<神龍は何歳ですか?>
<18歳。『導き』は恐らく13歳から23歳ということだね>
このアサギ国は人口が100万人だから、対象となる人は5万人くらい。そのヒントだけでは到底探せない。
<他に手がかりはありませんか?>
<『導き』に近づけば、この石が熱を持つ>
<僕がたくさんの人に会えば、『導き』に会えるかもしれませんね>
<無理はしないでいい。神龍と『導き』はいつか必ず出会える。その手伝いだと思えばいい>
<わかりました。もしも僕の石が熱くなったらお知らせします>
<あともう一つ、その石を持つ者は神龍とも話せる。話してみる?>
<はい。よろしくお願いします>
神龍と話せるなんて、夢みたいだ。
<心の中で神龍を呼んで>
神龍…と呼びかけてみる。
<神龍…神龍…聞こえてるんだろ>
ルチルさんも何度も呼びかけているけど、応答はない。
<聞いてるだろうから、一方的に話すぞ。今日、石の所有者に出会えた。紹介する>
<サク・フローレスです。よろしくお願いします>
神龍からは、返答はない。しばらく沈黙が続く。
<俺には『導き』はいらない。ルチル、余計なことをするな…>
不機嫌そうな低い声が聞こえた。心が冷たくなる。
<サクくん、ごめん。実は神龍は『導き』を探すことに反対しているんだ>
ルチルさんの美しい顔が歪んでいる。
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