開かれた金庫

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開かれた金庫

 お金がない男がいた。貧相な家に住んでおり、体はやせ細ってあばらが出ている。近所にある、大手企業の社長宅から捨てられる、チョコのゴミで食いつなぐ日々。 「チョコを捨てるなんて、金持ちすぎるだろ」  ある日、日課のゴミ漁りを誰かに見られてしまった。それ以降、社長宅からゴミが出なくなった。近隣の民家や、スーパーマーケット、飲食店もダメだった。被害を重く見た社長が、ゴミ漁りを広く周知したらしい。 「おのれ、贅沢社長!」  逆恨みした男は、盗みの計画を立てることにした。備蓄してあった最後のチョコをかじり、作戦を練る。自分の命がかかっている上、食べ物の恨みもあったので、恐ろしく完成度の高い計画書ができた。 「もう、三日も食べてない。空腹で死ぬ」  数日後、空腹に耐えかねた男は、とうとう計画を実行することにした。  深夜に社長宅へ侵入。空腹で集中力も判断力も低下していた上、暗い中での作業は、困難を極めた。しかし、緻密に練った計画書を見ながらやったので、ミスはしなかった。全ての防犯装置を突破し、誰にも気づかれず、金庫の前へたどり着いた。  金庫を見た男は、思わず息を呑む。なんと、金庫はすでに開かれており、すぐ横に金塊とコインの山が積まれていたのだ。 「整理した時、入れ忘れたに違いない」  男は大喜びで、金の山を金庫に投入。自宅へ持ち帰った。防犯装置の高鳴りも、パトカーのサイレンも聞こえない。見事、男は計画を完璧にやり切ったのだ。 「食べ物の恨み! ざまあみろ!」  男は満面の笑みを浮かべ、金庫を開けた。内側からあふれ出る、きらびやかな金塊とコインたち。  だが、何か様子が変だった。コインのうち一枚を手に取り、まじまじと見つめる。よく見ればそれは、コインに似せて包装されたチョコレートだった。  慌てて金庫の裏側を見る。男はクスリと笑った後、号泣した。 『大容量の金庫Boxつき! 夢の金塊&コインチョコレートセット!』
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