推しを守っています

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 元々、在宅仕事と通勤仕事が半々だったので、外出自粛も日常生活の延長に過ぎないと思っていたが、やはりそう甘くない。  確かに在宅仕事期のときは一日家から出ないことや誰とも話さない日もあった。だが、夜、友達を誘って飲みに行ったり、仲間と昼間から集まったり、近所のスポーツジムで軽く運動して友達と他愛ないおしゃべりをするというあまりに身近でささやかな楽しみが、実はとても幸せな時間で自分と他人、社会とを結ぶ大事な糸だったと痛感した。  その幸せな時間が急に遠くなり、再び感じられるのはいつなのかわからないという不安や寂しさ、ひとり暮らしのツラさをも味わっていた。  だが、そんな私には光がある。それは「推し」の存在だ。  私にとって光となる推しは、平手友梨奈さんに他ならない。  奇しくも今年の1月、所属していた欅坂46から脱退した彼女は、3月に3年間担当していたラジオ番組からも卒業し、個人のオフィシャルサイトがあるとはいえまったく動きがない状態だ。  正直、オフィシャルサイトで元気かどうかだけでも配信してくれれば安心なのに…とヤキモキするけれど、彼女のためにできることがある。 「家にいること」。  聞き飽きたよ…とうんざりしている人も多いだろうと思う。私もそうだ。ひとりでいれば不安が増して、自分だけ、ちょっとくらいなら…と気持ちを爆発させたくなる。  でも、世の中は、社会は無関係のように見えて、すべて関わり合って存在している。蝶の羽ばたきが遠い場所の気象に変化を起こすように、自分の小さな行動がまわりまわって大きな影響を与えることもあり得る。  推しという存在を持って、初めて自分のこととして意識できた。  もしも「1日くらいいいだろう。遊びに出ている人もいる」という誘惑に負けて行動し、その日、たまたま私が接触した人、いや、ドアノブや手すり、つり革に触れたことで誰かに広がり、その誰かがまた誰か…を繰り返した先に、誰よりも元気でいることを願っている推しがいるかもしれない。いないとは、言い切れない。自分の寂しさと推しの安全。どちらが大事かなんて考えるまでもない。  だけど、ひとつだけ確実なことがある。  私が家にいれば、「その日、その時間、私が出かけたことによる接触ルート」はひとつなくなる。気が遠くなるくらい地道だけれど、今、大事な、大好きな人を守れる唯一確実な方法だ。
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