その3

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

その3

その3 アキラ 彼女はもう泣かなかった こんないい子が家出しなきゃいけないなんて… やるせないよ… その夜…、ケイコちゃんはほどなくして寝息をたてて眠りについた その寝顔は上を向いているが、両の手はオレの方へ向けている ややいびつな彼女の態勢… ”もう離れ離れになるもんか!” それは彼女のそんな決意の表れにも思えてくる ... さあ、明日からは新たなスタートだ 外では猛烈な雨と風が、かなり年季の入った窓を容赦なく叩つけてる やまない雨はない… そう心に言い聞かせたところで、まずは今日の一区切りとした 今日は早く寝るつもりだったが、結局眠りについたのは昨日よりだいぶ遅かった ... 翌日は目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた 上陸した台風の雨と風の勢いは、やや弱まったようだ 「あっ、アキラ、おはよう…」 台所で湯を沸かしていると、ケイコちゃんがお目覚めだぞ 「おはよう。ゆっくり眠れたかい?」 「うん、ぐっすりだった。ああ、朝ご飯とか、私作るよ」 「いいって、今日は。大したもんじゃないけど、パンでも焼くから。今コーヒー入れるよ」 「ありがとう」 布団から半身起こしたケイコちゃんは、ちょっと寝癖のついた髪とすっぴんがとてもかわいい そのかわいいは、チャーミングでキュティーでプリティーで… それ全部だった 二人の初めての朝食はトーストだけの質素なものだったが、彼女は喜んで食べてくれた 「おいしい、おいしい…」 はは、それしか言わないよ… 「今日のバイトは午後からだから、それまではここでゆっくりしよう」 「うん。外は雨だしね。このお城でアキラと”お話し”してる、へへ…」 ... 朝食を済ませた後、二人はテレビを見ながら、”お話し”してたんだが… 「そう言えばさ、アキラのギター、部屋になさそうだけど…。ひょっとして押し入れの中とか?」 ケイコちゃん、オレのギターはないんだ、今 「…ギターさ、壊れたんだ。いや、壊された」 「え?壊されたって…、誰かに?」 「大阪に向かった夜、拉致された時にね。麻衣が叩き壊したんだ」 「…」 オレはあえて彼女に”事実”を告げた 昨日の今日で、いきなり麻衣の話を持ち出すのは気が引けたが、やはりギターの話が出たからには、隠さないで話そうと… 彼女はしばらく黙っていたよ 口を真一文字に閉じて… その表情は、怒りが込み上げてくるのをこらえている‥・ それは明らかだった
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!