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2. 火事
突然、ドンドンドンという大きな音で目が覚めた。横を見ると、父と母も同じ音で、目が覚めたばかりのようだ。
「ちょっと、俺が見てくる。ここに居なさい」
そう言って、父は寝室のドアを開けて出て行った。そして、すぐに戻ってきた。
「火事だ! 何も持たずにすぐ外に出なさい。玄関まではまだ火が回ってないから、逃げられる」
父はそう言って、持っていたスマートフォンで、すぐに119番通報した。
「ドラゴンさんのぬいぐるみ、取ってくる」
そう言って、奥の部屋に行こうとした麻希を、母が捕まえた。
「ダメよ。今はまず、外に出るの」
「イヤだ、イヤだ!」
玄関の外に無事に避難出来たあとも、麻希は泣き叫んでいた。
消防車はすぐにやってきた。火は無事に消し止められた。不幸中の幸いで、隣家に対する延焼はなかったが、麻希の家は大部分が燃えてしまい、住める状態ではなくなった。一段落して、時計を見ると、午前四時三十分。消防車の音で、周辺の家には、何ごとだろうかと、顔を出している人が、ちらほらいた。
消防官の人がが近寄って来て言った。
「ご家族三人とも、ご無事で何よりです」
父が元気を振り絞った声で答えた。
「はい、ありがとうございました」
会話は続いた。
「火の元に心当たりは?」
「いいえ、ありません」
「一階の奥の部屋が火の元の様でしたけど、タバコの火の不始末ということもないですよね?」
「はい。うち、タバコ吸いませんから」
「分かりました。放火の可能性もあるかも知れませんから、警察にはそのように報告しておきます」
「分かりました」
「それにしても、この時間まで、ご家族の誰かが起きておられたんですか? この時間帯だと、みんな寝静まっていて、逃げ遅れる場合も多いものですから」
「そういえば、火事のときにドンドンドンという音がしたんです。それで皆が目を覚まして。」
「そうだったんですか。その音に心当たりは?」
父は、少し考える素振りを見せたあと言った。
「いや、分かりません。お前と麻希も、ドンドンドンという音を聞いたよな?」
母と麻希はうなずいた。父は聞いた。
「あれ、何の音だったのだろう? 泥棒でも入っていたのかな?」
母は答えた。
「戸締まりは、しっかりして寝ましたよ。何の音だったのかしら」
神様が火事だから逃げるように導いてくれたのだろうか。音の正体が分からぬまま、夜が明けてきた。
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