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5. 償い
火事の現場で、ドラゴンは無事に麻希に拾われて、一緒に付いて行けることになった。すぐにどうしたらいいかは分からなかったので、しばらくは、様子を聞いていた。
やがて、新しい家を建てるお金がないことが分かった。そして、ローンという借金を返すために、お父さんとお母さんが働き詰めになり、麻希ちゃんが、寂しい思いをしていることが分かった。
ドラゴンは、自分が、あの家を焼いてしまったせいでこうなってしまったという、自責の念にかられた。そして、何とかして、この家にお金をたくさん入れることが出来れば、新しい家も建つし、麻希ちゃんが寂しい思いをしなくてよくなると考えた。
まず、最初に頭に浮かんだのは、宝くじだ。当たりの宝くじをこの家に届けたらどうだろう? しかし、少し具体的に方法を考えてみると、挫折した。当たりの宝くじが、その辺りの道端に捨ててあるはずがないからだ。ほかの家から盗る訳にもいかないし、宝くじ売り場から盗る訳にもいかない。捨ててあるものなら拾ってもいいが、誰かが持っているものを盗ってはいけないはずだ。
次に思い付いたのは、競馬だ。結果が出た瞬間に、ハズレた馬券を、みんな撒き散らして捨てていると、おもちゃ仲間から、聞いたことがある。捨ててある中に、間違って当たりのものが混ざっていればいい。たしか、当たっていれば、結果が出てから二か月くらいは、換金できると、あのおもちゃ仲間は、言っていたはずだ。
ドラゴンは、毎晩おもちゃ箱を飛び出して、競馬場に向かった。うれしいことに、競馬場は近くにあった。アパートから徒歩十五分の距離だ。とはいえ、ぬいぐるみの小さな体では、一時間はかかる。体が小さいから、簡単に門の隙間から、競馬場の中に入れた。どうも、撒き散らして捨てられた馬券は、回収されて競馬場のゴミ置き場で袋に入っているようだった。競馬の結果が載っている新聞をみながら、一枚一枚当たりの馬券を探す。簡単には見つからない。それはそうだ。皆ハズレだと思って捨てている訳だから。
ドラゴンは毎日、競馬場に通った。ただ、雨の日は、びしょぬれになるから、行けなかった。お昼におもちゃ箱を開けて、なぜかぬいぐるみが、びしょぬれだったら、おかしいもん。
馬券のチェックは大変だった。手に指がないタイプのぬいぐるみだから、一枚一枚確認するのが、骨が折れる。音を立てて、誰かに気付かれてもいけないから、神経を使う。帰るときは、袋に馬券を戻して、元通りにして、怪しまれないようにしないといけない。でも、頑張った。麻希ちゃんの笑顔を取り戻したい。
二か月くらい、ほぼ毎日通っていたら、当たりが五枚見つかった。よかった。これで少しは償いになるかも。
当たりの馬券は、必ずみんなが目にしそうな、ちゃぶ台の上に置いておいた。「これは当たりです」と伝えたいけど、そこまではできない。文字の書き方は知らないし、ぬいぐるみだから、直接伝えられない。
あとは、なるようになる。麻希ちゃんと、お父さん、お母さんが幸せになりますように。ぬいぐるみの姿で、しっかりと見届けよう。
(完)
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