小銭の裏

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  そのおかげでどんなものでも手に入る。  お金があれば、雇ってもらうことも、家を借りることもできる。昼間プラプラ出歩いていても好奇の視線を向けられることもない。ある程度お金を持っていれば世間は優しい。持っていなければ冷たい視線をぶつけるか、もっと奪ってしまおうと舌なめずり。持たざる者からさらに搾取する貴族至上主義。鼠小僧は現れない。小さき者はただじっと黙って耐えるのみ。  ある日、大富豪になった私の前にあの紳士が現れた。  「ごきげんよう。お約束の物を頂きに参りました。」  はて、私はどんな物を約束したものか。  「とぼけても無駄ですよ。領収書は確認されましたか?」  あぁ、あのレシートみたいな紙のことか。どこへ行ったか。全く覚えていない。  「フフフ、どうやらお読みいただいていないようで、あれはあなた様が我々から1年お金を借りた契約書でございます。それも2倍にして返すお約束。」  「なんだって!」  私は頭を抱えた。紳士の言うことの信憑性を確認したくとも現物がなければそれも不可能。結果的に、読まずに行方知れずにした私が悪い。こんなところで説明書を読まない性分に足元をすくわれるとは。これだから電化製品と一度は戦う羽目になるんだ。  「いけませんねぇ。書類はしっかり読まないと。さあ、足りない分は働いてもらおう。」     紳士の堅い手が私の腕をつかんだ。
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