ケロ子、の新生活

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とりあえず、バスタオルを巻いたままの髪を乾かそう。ソファーの前の床に座り込み、ドライヤーをかける。これがいつもの定位置だ。 髪の量は多くなく少なすぎず。乾くのも早い方。胸下まである長いストレート。普段はアイロンで緩く巻いているから毛先が痛んできたかな。そろそろ偵察も兼ねて切りに行かなくちゃ。 ふと目に入ったテーブルの上に置かれた腕時計とノートパソコン。どれも性能が良さそうだ。いつもの生活習慣だった場所に見慣れない人の気配って、なんだか嬉しい。パテックフィリップ? 腕時計のブランドなのかな。申し訳ないけどわからない。 「乾かしてやる。」 背後から聞こえた声と同時に、取り上げられるドライヤー。 「あっ。え。いいよ。大丈夫。」 「いいから。じっとしてろって。」 後ろに座り込んだと思われるカジ坊に、髪をつままれ撫でられる。やだこれ、気持ちいい。 「綺麗な髪だな。」 多分、そう言ってくれた。かすかに聞こえた甘い言葉。なんか無性に恥ずかしい。すっぴんを見られるより、恥ずかしい。 カジ坊の手が、優しく髪をいぢくり倒し続ける。気持ちいい。なんだか眠くなってきた。美容院でもそうだけど、髪を撫でられると、どうして眠くなってしまうんだろうか。
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