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『会う度にお前に会わせろ、孫はまだかとうるさい。』
毎年12月には児童施設をサンタクロースとして回っていたくらい子供好きの大親分。
『親父は結納のつもりだけど気にしなくていいから。』
土曜日。元七瀬組本家でありサンタクロース宅。これから親分さんとの顔合わせの飲み会が開催されて、今日はここに一泊させていただくことになるらしい。カジ坊の実家にお泊り。めちゃめちゃ緊張する。
「え、ここがカジ坊の部屋?」
吹き抜けから内部に足を入れた途端、ずっと同じ壁、同じドアの造り。わかりやすく言えば迷路。どこを曲がっても同じ景色の廊下を通ってカジ坊が迎え入れてくれたのは、高級旅館の露天風呂付客室のような部屋。四畳半もあれば十分だ、なんて言ってたのにね。
「ここは客室。」
じゃ、カジ坊の部屋は別にあるってことだ。あ、でも。カジ坊はこの豪邸から出たわけだから、カジ坊の部屋ではなくなってる可能性はあるわけで。
「なんだ。カジ坊の部屋に泊まれるのかと思ってたよ。」
「ここじゃ不服?」
「不服とかじゃなくて。離れて暮らしていた時代のカジ坊を知りたかったなって。」
「ほんと、変わり者。」
「えー。そこはお互い様でしょ?」
フッと笑う。
「本家の風呂は銭湯並みに広いが一つしかない。気づいてると思うが、ここにはむさっ苦しい男共しかいない。鉢合わせ回避の為に、女性客はここ風呂付き離れに案内される。」
こんなこと言っては失礼なのかもしれないけど。
「とてもヤクザ事務所とは思えない行き届いた配慮に脱帽だよ。」
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