ケロ子、30歳課長

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「課長 !おはようございます!」 「おはようございます、朝倉さん。」 月曜日、朝8時半。 鉄仮面を顔に貼り付け、自分のデスクの拭き掃除をしていた私に挨拶をして、朝から肌ツヤの輝いた後輩、朝倉沙織(アサクラ サオリ)25歳が入り口近くの自分のデスクに着く。 今日もクルクルふわふわ可愛い歩く女子力。 若さと戦う気は毛頭ないけど、見習わなければ。 職業柄、悪あがきも大事であ〜る。 「金曜日はありがとうございました。おかげで彼に怒られずに済みました。」 「それは良かったです。」 「本当にありがとうございました!」 「そこで朝倉さん。ひとつお願いがあります。」 「は、はい」 「就業時間内に終わりそうもない急ぎの案件は、前もって相談して欲しいのです。定時で終わらせることができたはずの仕事にもかかわらず、余分な残業手当を会社に払わせてしまうのは心許ない。それが私の本音です。」 そう。何を隠そう私はおバカでお下品な本当の顔と性格をひた隠しにしている。ついたあだ名は『氷のカルメン』。カルメンとはフランスのオペラらしい。フラメンコとか踊ったこともないんだけど。 面白味がないクソ真面目な人。そんな風に言われているのは知っている。だけど、人間関係なんてそれくらいが丁度いい。 認めるのはシャクに触るけど育ちのせいからなのか。愛に飢えてる自覚はある。人に執着してしまう恐れがあることも。大切だと思える人との別れは寂しくて苦しい。経験済みだ。だから距離を置く。 「はぃ・・、すみません。気を付けます。」 言いたいことを、一気に言い放った私に、キラキラおメメが揺れに揺れる。あぁ、なんて可愛いんだろうか。こんなおメメで見つめられたら、抱きしめてしまう男の気持ちがよくわかる。私も抱きしめたい。 「フォローはしますので、一緒に頑張りましょう。よろしくお願いします。」 わずかに俯いていた彼女がパッと顔を上げる。 「はい。頑張ります! 課長、コーヒー飲みますか? 淹れてきますね!」 「あ、はい。ありがとうございます。」 切り替えの速さに、心の中で笑ってしまった。若いって素敵。 根本的に人と深く関わるのが苦手な私。人生、今まで一番悩んだのがズバリ人間関係。誰だって人に嫌われたくない。よって厳しいことは極力言いたくない。そういった事は普通に人任せにしたい案件だと思う。 立場上、上司として後輩に向け厳しい指摘をしなくちゃならないけど、個人的な人間関係は別として、仕事上の関係はうまく築かなければいけないし。 悩んだ末、出した結論は『鉄仮面』 面白味がないクソ真面目、これ楽ちんサイコー。
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