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バタバタバタッ......
バタバタバタッ......
「アダム! どうしたの?!」
「何かあったのか? アダムは大丈夫か?!」
渾身なるアダム君の『フギャー!!!』を聞き付けて、何事かと慌てて隣の寝室から飛び込んで来たのは、言うまでもなく絶倫国王シーザーと、あまり絶倫では無い王妃のソニアだった。
ハァ、ハァ、ハァ......
フゥ、フゥ、フゥ......
2人して息が上がっている。取り分けソニアに関しては、産後の体調があまり宜しくない。医者からは絶対安静と申し使ったばかりの出来事だった。
「おいおい、なんだ......スヤスヤ眠ってるじゃないか」
ソニアの身体を優しく支えながら、シーザーが安堵の声を漏らすと、
「きっと悪い夢でも見てたのね......ああ、アダムの顔見たら安心したわ」
ソニアは地べたにへたり込んでしまう。やっぱ体調が万全では無かったのだろう。
一方、シーザーは何やら目をキョロキョロさせて、落ち着かない様子。そして語った。
「この子は将来の国王となる大事な身だ。明日からは、警護の人間を付ける事にしよう」
「確かに、それがいいですね」
「よし、ぐっすり眠れ。ア・ダ・ム」
「それじゃおやすみ。ア・ダ・ム」
ギー、バタン。
再び、静寂が訪れるアダム君の寝室だった。
ところが、当のアダム君はと言うと......本当に悪夢を見ていた。残念ながら、それは『現実』と言う名の悪夢だった。
おい、おい、おいって! そこでスヤスヤ寝てんのは、アダムじゃないぞ! よく顔見たのか?! 親なんだから、すり変わってる事くらい気付けよ!
それと......この軟弱タイプは何しようとしてんだ? 俺を勝手に連れ去りやがって。一体、どこ連れてくつもりなんだ?!
あれ?......なんだか着てる服がソニアとずいぶん違うな。ソニアはキラキラしてたのに、この軟弱タイプはやたらと薄汚れてる。袖なんか、ほつれてるじゃんか。多分......こう言う服が好きなんだろうな。まぁ、俺の趣味じゃ無いけどね......
タッ、タッ、タッ......一直線に続く長い廊下を、落ち着かぬ足音が響き渡る。雰囲気は正にホーンテッドマンション。等間隔に置かれたランプの灯りが、そんな足音の主をおぼろ気に映し出していた。
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
長い廊下を走って、何段も階段を駆け降りて、また走って、また降りて、また走って、また降りて......
そんな行程を一体何度繰り返しただろうか? やがてたどり着いたのが大きな扉の前だった。
ギギギッ。
扉を開けると、外には1人のいかついタイプが2人を待ち受けていた。
「さぁ、こっちだ。おっと......その顔だと上手くいったみたいだな」
「もちろんよ兄さん......でもなんか......ちょっと寂しい」
「おいベーラ......今更何言ってんだ? これはお前が選んだ道だろう。どっちみちすり替えなかったら、お前の子は『大陸』送りだった。例え父親が国王だったとしてもな。酔った勢いで作っちまった子なんて、あのおっさんが認知する訳無いからな。
すり替えちまって大正解だ。あのドン臭い王妃は、お前と国王の間に出来た子を、自分の子と信じて育てる訳だ。こんな滑稽な話があるか?
王妃が生んだこんなクソガキなんか、とっとと役所に出して『大陸』に送っちまおう。そうすれば全てが闇に葬られて万事OKだ。
今更、怯んでどうする? 全てはあの子の為じゃないか。いい加減、もう腹を括れって!
それで時が来たら、お前があの子の母親だと名乗り出るんだ。国王の慌てる顔が、まるで目に浮かんで来るようじゃないか。実に愉快な話だ! ハッ、ハッ、ハッ......」
クソガキで悪かったな! どうせ俺は『大陸』送りだよ。ところで......『大陸』ってなんなんだ? 美味しい食べ物なのか?
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